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2012-05-15 Tue 18:42
蒼き空の下で
PHASE-03 不幸は続けてやってくる 「裕也さん、お久しぶりです!」 「……はい?」 にこっと満面の笑顔。 それに対し俺はぽかんと口を開けていた。 落ち着け、状況を整理しろ。 えーっと、家に帰ってきたら見知らぬ美少女に声を掛けられた。 美少女は俺と同じ葵学園の生徒みたいで、俺の事を知っているらしい。 けど俺はどんなに記憶を探しても心当たりがま っ た く な い 。 「(フラガラッハ、お前心当たりあるか?)」 〈どうでしょうねー。こんな美少女だったら私も一発で記憶してますけど〉 どうにもフラガラッハも心当たりがないらしい。 気まずい、非常に気まずい。 ここは……! 「あ、ああー! うん、久しぶり! アレだね、アレ、元気にしてた? ああ、覚えてる覚えてる。あの時の! いやー久しぶりだなー。うんアレだねー、アレ。うん、アレであれがああなってあれあれしてあれ」 ……ザ・知った風な口作戦! ……出来るわけがない。 「……裕也さん? どうかしましたか?」 「え?」 ずっと考え事していたせいで会話が途切れ、不審に思った彼女が声をかける。 あぶねぇ、現実逃避していた。 けど結局彼女の事は思い出せず……。 「えーっと……すいません、どちら様でしたっけ……? 以前お会いした事あります?」 つい敬語になってしまった。 いや、同い年に見えるけどもしかしたら先輩かもしれないし、多分初対面だからいきなりタメ口はまずいと思う。 「はい。裕也さんの事はずっと前から。私、宮間夕菜と申します。葵学園に転校してきました。今日から……裕也さんの妻として、寝食を共にさせていただきます」 「」 つま? つまって刺身とかに添えられている大根の千切り? それとも歯の間に挟まった食べかすを取る木製の短い棒? それとも高い所にあって手が届かない時についやってしまう立ち方? えーっと、他には、他には……あの、男女が結婚してから呼ぶあれ? 「…………はっ!?」 あ、危ない! またも現実逃避してしまった。 落ち着け、落ち着くんだ結城裕也。 冷静に対応するんだ、こう言うのは。 「あーすいません、新聞の勧誘は間に合ってるんですけど」 「はい?」 「って違う!」 まだ混乱してるか俺は! 「えぇっと、ちょっと待ってくれ。まだ頭が混乱して……つまってあの妻? 英語で言うワイフ? 話が全然見えないんだけど……ってか俺らまだ学生だし結婚できる年齢じゃないだろ?」 「確かに、私と裕也さんは結婚できる年齢じゃありません。けど気持ちだけでも、夫婦のほうが良いじゃないですか!」 「いや、初対面の相手にいきなりそんな事言われても困るんだが……」 「初対面なんかじゃありません! 私と裕也さんは――」 けど彼女の言葉は、突然ドスンッと俺の頭上から降ってきた何かで遮られた。 「ぶみゅうっ」 「あら、カエルみたいな声出しちゃって意外と可愛いわね」 「か、風椿玖里子先輩……?」 な、何でアンタが俺の上に圧し掛かってるんですか? 「私の事は知ってるみたいね。なら話が速いわ」 「ってなんで服脱がしに掛かるんですか!」 「大丈夫。すぐに気持ちよくなるから」 「いや質問に答えろよ!」 「言わなくても分かるでしょ? アンタだってやってるじゃない」 「やってないわ!」 「あら、もしかして初めて? プレイボーイと思ってたのに意外だわ」 「なんだそれはぁぁぁ!」 絶叫と抵抗も空しくどんどん服を脱がされる俺。誰か助けて!! こんな貞操の失い方はいやだ! 「裕也さんから離れてください!」 宮間さんの声と共に滝みたいな水が落下してくる。……魔法!? ヤバイ、直撃! だけど、風椿先輩が懐から1枚の札を取り出して投げつける。そして水流は札……守りの護符によって防がれた。 「チャンス!」 両腕が自由になる瞬間を俺は見逃さず、風椿先輩を引き離して素早く起き上がる。 「きゃっ!」 あまりに突然すぎたのか、突き飛ばされて受身も取れずに尻餅をついてしまった。 いくら緊急時とは言え女子を突き飛ばすのはまずかったか。 「えっと……すいません、つい」 「やったわね……こうなったら力ずくで!」 「そうはさせません!」 札を放つ風椿先輩と、それを水精霊で迎え撃つ宮間さん。 派手な爆発サウンドが目の前で起き、俺は眼前を両腕で庇う。 「何がどうなってんだよ……」 まあとにかく、2人が気を取られている隙に逃げよう……。 そう決断して振り返ると、いきなり目の前に白銀の刃が突きつけられた。 「お前が結城裕也か」 「えーっと……一応そうですが」 思い出した、この子1年の神城凜だ。前に浮氣が狙ってるとか言ってたっけ。 確か九州で代々続く退魔の家系で、沙弓の家とはライバル関係とか。 「お前のことは我が夫となるゆえに調べさせてもらった」 「夫ってなんで?」 「調べて見て愕然とした。成績、運動共に優秀だが学園で起きるトラブルの大半の元凶で、覗き行為も働いた上に神界と魔界のプリンセスを篭絡したプレイボーイと……」 「誰がそんな嘘っぱち垂れ流したの!」 「趣味のゲームは屋上を勝手に改造しカードゲームのスペースを設置すると言う問題児だと!」 「多分ヴァンガードのファイトテーブルはアキラが権力乱用して作ったんじゃ……遊戯王はデュエルディスク使ってるし」 「うるさい! お前を私の伴侶にしないといけないが、こんなダメ人間みたいな男を生涯の伴侶にするなど真っ平ごめんだ! だからここでお前を斬る!」 なぁにそれー、俺にもわかるように3行でお願い。 刀を上段で構える神城さん。だがその前に宮間さんが立ちはだかった。 「何をするんですか」 「宮間家の人ですか。どいてください」 「いやです」 「こんな男のために人生を棒に振る気ですか」 「私の人生です。他人であるあなたにとやかく言われる筋合いはありません!」 庇ってくれるのは良いけどこれって貴方も1枚噛んでるって分かってます、宮間さん? 「隙あり!」 「おっと」 背後から飛びかかってきた風椿さんをかわし、そのまま何度かステップを繰り返して3人から離れる。 「次から次へとなんだってんだ……宮間さんはともかく、風椿さんや神城さんには俺何かしたっけ? 面識なかったと思うけど」 「確かに面識はないわね。あんたの噂ならいくらでも聞いてるけど。って言うか何も知らないの?」 「少なくとも2人の恨みを買うような事はしてないはずですが」 「別にお礼参りじゃないんだけど……」 復讐じゃない? じゃあ何で面識のない相手に襲われるんだ。 「まあ、私たちはあんたの持ってる「ある物」を貰いに来たってところかしらね。私のところはまだ成りあがりだから睨みを利かせる何かがほしかったところで、夕菜や凜はここんところずっとヤバイのよねー。だから一族の会議で新しい血でも入れようって事になったんじゃないの?」 「血?」 なんだろう、何かが引っかかる。 引っかかりを突き止めようと記憶を探ると、保健室での話が不意に浮かんできた。 「もしかして……3人が欲しいのって」 「そ。あんたの子種」 「ブッ!?」 女性がしれっと言うなよ、俺でさえ知らない女子に対して抵抗あったのに羞恥心って物がないのか! 「で、事情も知ってもらえた事だし頂戴♪」 「はいそーですかって渡せる物じゃないだろ!」 があーっと吼える俺。 バカらしい、なんかすっげぇバカらしいトラブルに巻き込まれてしまった……。 「誰がこんな男のこ、こっ、こだ……」 「いや、無理に言わなくていいから」 さすがに神城さんはそれを口にするのに抵抗があるらしい。宮間さんも同じく顔を赤くしている。 「確かに、俺の家系って有名どころの魔術師やらなんやらの血が混じってるとか言うけど……」 「なんだ、知ってたのね」 「一応勘当されてから独自に調べました」 「勘当? あんたって確か一般家庭じゃかなったっけ?」 「あ、それ偽装です」 しれっと答えた俺に、3人は「え?」と疑問符を浮かべる。 話すかどうか一瞬悩んだが、この際だから話すべきだろう。知ってくれれば手を引くと思うし。 「闇市場に流れた俺の個人情報は、紅尉先生に依頼してでっち上げた物ですよ。まあ、改竄できない部分はそのままですけど」 「改竄って……あんたがそこまでする必要のある人間には見えないわよ?」 「そうですか? そうかもしれませんね。ああ、そうか……なら繋がるのか? 宮間さんって俺が勘当される前の許婚か何かだったのか?」 「許婚? い、いえ、そういう事じゃ」 「なんだ、違うのか。それだったら納得したかもしれないのに」 「さっきから……何を言っているんだ? お前は……」 俺の話に付いていけない神城さんが警戒したように尋ねる。 本当ならそんな話たくないんだよなぁ、家の事。 「俺は――」 「――お、裕也殿じゃねーか」 意を決して切り出そうとした瞬間、背後から掛けられたいかにも豪快そうな声に思いっきり出鼻を挫かれてずっこけた。 って言うか、今のはまさか……。 恐る恐る振り返ると、和服を着た筋骨隆々の男と色男の2 人 組 ! シアとリンの父さんじゃん! 「な、何で2人がここに?」 「家の前がやけに騒がしいから出てきたら、裕ちゃんがいたんだよ」 「家!? あの家!?」 魔王様がさらりと言うと、俺は仰天して洋館を指差した。 「ああ。色々立て込んでて挨拶が遅れてしまっててね。申し訳ない」 「ちなみに俺の家はあっちだな」 「あの屋敷が!?」 まさにびっくり仰天。 ただでさえ転校してきて驚きと言うのに、両隣8件潰して出来た豪邸が2世界の王の家ってなんだそれ!? サプラ〜イズ! ってレベルじゃねーよ! 「で、どうしたってんだ? なんか揉めてたみたいだが」 「そちらのお嬢さん方は裕ちゃんの知り合いかな?」 「いや、なんと言うか……」 まだ理解が追いつかず、それぞれを見比べてしまう。 さすがに風椿さんたちも2世界の王を前にして硬直してしまったようだ。しかもとんでもない事聞かされてなおさら。 まあ俺も固まりたいんだけどね。けど立場的にそうも行かないんだよな、これ。 「えーっと……話したいんですけど、色々複雑な事情が絡み合って……」 「ふむ。長くなりそうなら立ち話もなんだね。私の家で聞こうじゃないか」 「だな。ここじゃあ近所迷惑だろう」 ……気まずい。非常に気まずい。 結局、魔王様の家に俺たちは招かれ、3者が向かい合う形で座る事になった。 さっきまで争っていた風椿さんたちも魔王様と神王様の前では完全に萎縮して小さくなってるし。 ああ、すっげぇ喉カラカラだ。 1人用のイスに腰掛けた俺は、多分高級なイスなんだろうけどその感触を味わう余裕もない。 しばらくの間場は沈黙が流れ、俺は気まずくて出された紅茶を飲むだけだった。 けどこうし続けるわけにもいかない。俺が話を切り出さなきゃ何も始まらないし。 「えっと……ですね。どこから話すべきか……まあ、俺たちが家の前で揉めていた事から話したほうが良いでしょうか?」 「そうだね。こんな美しいお嬢さんを相手に裕ちゃんはどうしたんだい? まさか四角関係とか?」 「ほぉう、なんだなんだ、裕也殿も奥手のように見えて意外とやるじゃねぇか」 「違いますっ!」 全力否定。まず会ってまだ1時間も立ってないのに何でそうなるんだ! 「えーっと、彼女たちはですね、それぞれ有名な家系の人たちだったりするんですけど、それぞれ似たり寄ったりな理由で新しい血が欲しかったみたいで。そんな時、俺の個人情報が闇市場に流れたとかで、それに目をつけて飛んできたらしいです」 「個人情報? ああ、あの話か」 「それならアーちゃんからも聞いているよ。その事で事態の収拾に動いているとか」 「あいつが?」 「おう、緊急だから学校を早退したって聞いてるぜ」 そっか、アキラの奴が動いているのか。 そういえば紅尉先生も収拾したとか言っていたし、アキラが動いていたならあいつが早退した理由も納得が行く。 「で、この娘っ子らは裕也殿の遺伝子を取りに来たってぇわけか」 「え、ええ……」 じろりと神王様に見られ、風椿さんは緊張しながら肯定する。 さすがに学園の影の支配者でも神界の王を前にしては赤子も同然か。見た目的にも怖いし。 「それが、揉めていた内容です。で、次に……彼女たちに俺から話そうとしていた事なんですけど」 神王様たちから視線を外し、風椿さんたち3人に向ける。 「俺は「結城」の家の人間なんだよ」 「「結城」?」 簡潔に事実のみを伝える。 3人は怪訝な表情を浮かべていたが、徐々にその意味を理解して行くとはっと目を見開いた。 「まさか、あの「結城家」の!?」 「結城家」。 それは知らない人間はいない、地球でも最も有名な一族。 莫大な魔力と魔法回数を持ち合わせ、精霊術だけでなく晶霊術、召喚術などありとあらゆる魔法に精通し、あらゆる業界にも影響力を持つ。 表向きは魔術師の家系だが、歴史を紐解けば退魔だけでなく様々な血生臭い事を行っていた事もあり、邪魔者は力ずくで排除して来た事も多い。 そのためロンドンの魔術協会からも封印指定を受け、一般の間ではタブーとされてきた禁断の一族。 それ故にヴェールに包まれており、謎に満ちているため根も葉もない噂も多い。 「そっ。一応その宗家の嫡子」 「で、でたらめを言うな! そんな話……!」 「信じられない? けど俺の家系図を見たんだろう? ただの家庭の人間があんな有名どころの血を引いている筈がないじゃないか」 「だが、結城家はその存在を秘匿していると聞く! 表社会に出る事はよほどの事でない限り無いはずだ!」 「ああ、そうだな。まあ案外表社会には出てるもんだぜ? 木を隠すなら森の中……意外と気づかれないもんなんだよ」 「……本当に、それが本当の話だとして、どうしてあんたはあの家に居候しているの? 結城の人間なら他にいくらでも……」 「簡単な話ですよ。俺、家追い出されたから」 「えっ……!?」 「勘当されたんです、宗主……つまり親父直々に。つまり俺はもうあの家となんら関係はない。だからこうして話しても問題はないってことなんですよ」 「……俄かには信じがたい話ね、それ」 「けど納得できる節はあるでしょう? そんなわけで、俺は一族のはみ出し者であると同時に危険物なんですよ」 「危険物?」 「考えてみてください。結城は表舞台に出る事を極端に嫌う。ただでさえ封印指定食らってる上に一般ではタブーの一族だ。そんな中、はみ出し者を新参者の一族が見つけ、それを手に入れて急に繁栄した。当然あいつらはそれを許さない。何せ秘術やらなんやらを他に漏らすって事ですから。それを知れば、全力で消しに来る。俺も、その一族も」 『…………』 淡々と事実のみを告げ、俺は一区切りつくと紅茶で喉を潤した。 俺の指摘に3家の娘たちは何も言う事が出来ず、黙り込む。 「しかもそのはみ出し者は宗家の嫡子で、本来次期宗主になるはずだった人間。一族にとっては汚点以外の何物でもない。全面戦争になったら、あなた達は敗北します。あの一族の戦闘能力の高さは語る必要もないでしょう」 かつて、近代に代表される魔法体系はその半数近くが結城が関わった物であると言う。 そしてそれらをどこよりも極めた一族もまた、結城と言う話だ。 最も、世に出て関与しているのは結城にとって副産物のような物。本来目指していたものは、より高度な物ばかりだろう。まあ、魔術師たるもの根源にたどり着く事が目標だから、様々なやり方でアプローチしている結城は特殊な所か。 加えて魔法を使う資質も非常に高い。 近親交配を行いつ血統を維持しつつ、外部から有力な血を取り込んで来たためその資質は世界最高。魔法回数も平均10万越えが普通だ。 あらゆる魔法体系に高い適性を持ち、高い魔力と魔法回数によってその能力は軍隊にも匹敵するとも言う。 そんな一族を相手に、最近勢いがない一族や新興の一族が立ち向かっても敵うはずがない。 その事実を告げると、すかさず風椿先輩が噛み付いた。 「けど、それじゃあ! 魔王さまや神王さまの娘と結婚しても同じ事じゃない!?」 「かもしれません。まあその辺は恐らく平気でしょう。あいつらも世界の1つを滅ぼすほうがリスクもデメリットも大きい。むしろ利に繋がるとみるか……良い取引と判断して」 「どうして!?」 「簡単です、ただの新参者や大して力のない奴が俺を手に入れても向こうには何の利益にもならない。けど相手が2世界の王の血族なら話は別だ。厄介者でも気に入ってくれたなら結果的に一族は異世界にも繋がりを得る事が出来、メリットになる。あなたたちではデメリットにしかならない」 神王様や魔王様の前でこう言う風に言うのは気が引けるが、事実だから仕方ない。 「すいません、若造が生意気な口言って……」 「いや、気にしないでくれ。裕ちゃんの事情も分からなくもない」 「確かに話を聞く限り、言い方はアレだが裕也殿がどれだけ危うい立場か分かるからな」 視界を神王様たちに移し、申し訳無さそうに頭を下げる。 けど2人も俺の話に理解を示してくれて、俺はほっと胸を撫で下ろした。 「別に俺は、3人が嫌いだからこう言う話をしたわけじゃない。まだ知り合って間もないのに好き嫌いの判断はつかないし。剣を向けられたり押し倒されたりしたけど、それはまだこっちの事情を知らなかったからだろう? これは3人の身を案じて話しているんだ。信じるか信じないかは各自の判断に任せるけど、それでもなお俺の遺伝子を欲しいといえる?」 『…………』 黙りこむ3人。 無理もない。家には手に入れろと命令されたが、実はそれは一族が滅びる爆弾だったんだから。 それを聞かされ、今更欲しいといえるはずがない。 「しかし驚いたね……裕ちゃんにそんな事情があったなんて」 「すみません……シアやリンにもこれは話すべきなんでしょうけど、先に2人に話すことになって」 「いや構わないよ。むしろ私たちが先に聞いてよかったと思う。ねえ神ちゃん?」 「ああ。こりゃ本人同士でどうにかなる問題じゃなさそうだしな。しっかし……裕也殿の家がそんな家だったとはな」 「一応もう関係ないとは言っても、なんだかんだでまだ関係ありますからね。意外と近くで家の関係者が監視しているとも限りませんし……」 ……そう考えると、俺は家の呪縛からまだ逃れる事が出来ないんだろうか。 「そういえば……話を聞いていて少し気になった事があるんだけど、いいかい?」 「なんですか?」 「裕ちゃんは宗主……つまり父親に勘当されたと言ったね? いくらなんでも嫡子を勘当したら一族の次世代は大丈夫なのかな?」 「それなら大丈夫でしょう。俺が消えても代わりは居ましたから」 「代わり……と言うと?」 「俺、2人兄弟なんです。俺が居なくなっても弟が家を継ぐ事になるだろうから、その辺りは心配無用でしょう」 「なるほど。あともう1つ、裕ちゃんは……答え辛かったら構わないが、なぜ勘当されたんだい? よっぽどの理由があったのかね?」 「理由……?」 魔王様の問いに、ふと俺もふと俺も疑問を抱く。 俺……なんで勘当されたんだろう。 どうして家を追い出される事になったんだ? なんで…………? 「…………」 「いや、やはり聞かなかった事にしてくれ。あまり話したくないないようだったね」 俺の沈黙を拒否と思い込んだのか、魔王様は申し訳無さそうに謝る。 いや、そうじゃない。考えていたんだ。 「すいません、そう言うことじゃないんです。ただ……自分でも、思い当たらなくて」 「思い当たらない?」 「ええ。まあ、子供の頃の話だから思い出せないかもしれないんですけど。当時の心境的に目の前真っ暗だったと思うし。多分、俺の魔法回数の少なさが原因なんじゃないんですか? 一族じゃ最低でも5桁なのに、俺1桁ですから」 「つまり覚えていない、と言うことかね?」 「ええ。まあ、どうせ記憶障害で忘れたんだろうし」 「記憶障害? あんた、記憶障害なんてあった?」 ようやく態勢を立て直した風椿さんが尋ねてくる。 ああ、そういえばこの場にいる人たちには話していなかったっけ。シアとリンには話したけど。 「まあ、弊害と言うか……俺、ジャンクションを使用しているんです」 「ジャンクション……あのG.Fを意識内に常駐させ、魔法を接続する事で各種身体能力を強化するあのシステムをか?」 「ああ。別に昔の記憶なんて忘れてしまっても殆ど入らない物ばかりだったし……おかげでシアとリンと出会った時の事まで忘れたのは失敗だったけど」 「使っている人間なんて初めて見たわ……。発表された当初は注目されていたけど、記憶障害の欠陥が見つかってからは急速に廃れたし」 「俺にとってはメリット以外見当たらない物でしたから。これ使っていてよかったって思う場面も何度もありましたし。まあ、これも一族の関係者が見つけた技術って言うのは皮肉ですけど」 まあ、今のご時世、古に失われた秘術ならまだしも現代の物は殆ど結城が関わっているから仕方ないか。 「にしても驚いたわ。まさか学園にそんな人がいたなんて」 「意外とわからない物ですよ? 今回見たいなケースがない限り大人しくしていればまず分かりませんし」 「お前が大人しいなら毎日のように学園が騒動に巻き込まれないと思うんだが……」 「なんで静かにしていたいのに目立つんだろう……」 「それはまあ、ねえ?」 同意を求めるように神城さんを見る風椿さん。 神城さんもその真意を分かっているようで、黙って頷いた。 「いや、なんとなく理由は分かってるんですけどね……」 「それはさておき……その話、アンタも嘘を言っている様子はないみたいだし私は信じてみるわ。遺伝子手に入れても一族が滅亡するようなら元も子もないし」 「私はそもそもお前を伴侶にするつもりは無かった。それを全て信じるつもりはないが……お前を殺すのはやめよう。こうして話してみると思ったよりも悪い奴では無さそうだ」 「凜は素直じゃないわねぇ。まあ、なんか奇妙な縁で知り合ったけど、これからもよろしくさせてもらうわ。あんたの起こす騒ぎって聞いてると面白いものだし」 「仲良くするのは構わないですけど、騒動に関しては当事者的に面白い事じゃないですっ」 パッと扇子を広げる風椿さんに思わず突っ込んだ。 「私は……」 不意に、今まで口を閉ざしていた宮間さんが口を開く。 「私は違いますっ!」 「宮間さん……?」 急に立ち上がったかと思うと大声で否定した宮間さんに、注目していた俺たちはぽかんとなる。 「私は遺伝子なんて目的じゃありません! 私は……っ」 そう言うと、宮間さんは突然部屋を飛び出してしまった。 その場には俺を含めて、何が起きたのか分からずぽかんとしている5人が残される。 「……なんだってんだ?」 「あのねぇ……分かんないの?」 「いや、分かんないのって言われても……」 「はぁ〜。こりゃあの子が言ってた通り鈍いみたいね」 「へ?」 「こっちの話よ。とにかく、あの子とあんた、昔会った事があるんじゃない? あっちが知ってるって事は昔どこかで会った事があるんでしょう?」 「どこかで……」 「って言っても簡単に思い出せるはずがないか……小さい頃のことみたいだし、その上あんたはジャンクションの記憶障害。程度は知らないけどその様子じゃ覚えてないみたいだし」 「…………」 風椿さんの言う通り、どれだけ記憶を探っても心当たりは思い出せない。 もし、あの宮間さんと出会ったのがあの頃のことだったら……なおさら思い出したくない。 「しょうがないわね〜」 「風椿……さん?」 「玖里子でいいわ。今日知り合ったよしみで、フォローしてあげる。アンタが追っかけて弁解しても逆に傷つけるだけになるだろうし」 「……すみません」 「……私も行こう。夕菜さんとは私も面識はある」 「神城さん……」 「気にするな。お前の事情を知ってしまえば責める事は出来ない。それに、玖里子さんの言う通りお前が夕菜さんに弁解しても逆に傷つけることになりそうだからな」 「2人とも……。すみません、ありがとうございます」 2人の気遣いに俺は深く頭を下げた。 神城さんは相変わらずだが、玖里子さんはふっと笑い、神王様と魔王様に頭を下げると、宮間さんを追って部屋を出て行く。 「……なんか、情けないですね。自分のことなのに他人に任せるのって」 「そう思うのなら、次に会った時にはちゃんと謝ったほうがいい。裕ちゃんは分かってるんだろう?」 「ああ。記憶を犠牲にしてまで裕也殿は力を求めたんだろう? 代償としてこう言う事が起きる可能性も、分かってたはずだ」 「そうですね……別に思い出したくない、あの頃は必要のないものだったから平然と切り捨てられた。今は惜しいと思うこともありますけど……やっぱり、捨てられません」 「どんな力にせよ、それは裕也殿が手に入れた力だ。それがあったから今こうしていられる。なら迷わず誇りを持てよ」 「ありがとうございます……迷惑かけてすみませんでした、神王様、魔王様――」 2人の気遣いに感謝し、礼を口にしながら頭を下げる。 ――が、なぜかその2人の後ろにズガピシャーンッ! と激しい稲妻が背後に走った。 「つ、つれねえじゃねえか裕也殿! 将来親子になろうってのに、『様』はねえだろう。『様』はよう!」 「ショックだよ! ショックだね! いわゆる大ショック!! と言うやつだね!!」 「は、はあ!?」 「なにか!? 裕也殿の家では、実の親を様付けで呼ぶような風習でもあるのかい!?」 「裕ちゃん、それはいけない! これから家族にもなろうと言う2人がそんな呼び方をしては、絶対に真の親子にはなれはしない!」 「いや、そんな風には言ってませんけど……」 「確かにさっきの話で裕也殿の家庭の事情って奴ぁわかったが、いつまでもそんな堅苦しく言うこともねえだろう!」 「そうとも! なんなら今からでも私たちの事を実の父親のように思ってくれてもいい!」 「ええ〜?」 あんるぇ〜? さっきまでシリアスな雰囲気だったのになんか一瞬で瓦解したよ。なぁにこれー? 誰か状況纏めて。 「まー坊の言う通りだ! 『父上』でも『親父』でも、どっちか好きな方で呼んでくんな」 「私のことは『パパ』と呼んでごらん」 もしかして俺はミステイクをやらかしたのだろうか……もうこれ、ブレーキの壊れたガソリン満タンのタンクローリーだろ。 無論、その域に達していない俺では止めることは不可能。 避けるべきか、死ぬ覚悟で受け止めるか……受け止めたほうが二次災害も少なくなるかも。避けたら爆風で吹っ飛ばされるだろうし。 ……あ、どっちにしろ無事じゃないじゃん。俺。 「ああ、呼びにくければ『お父様』でも構わんよ」 「えーっと……」 どうにか止めたい。いや、止めるべきなんだと思う。 けど俺には止める事が出来ない。誰か助けてー! 「よっしゃー! こうなったら裕也殿飲むぞー! 親子の契りの酒だあ!!」 「酒の肴なら任せてくれ。簡単な物でよければすぐに用意するよ!」 「いや、2人とも……」 「気にするな裕也殿! いちいち遠慮しているようじゃ本当の親子には――!」 ドグシャッ! 次の瞬間、神王様は俺の前で吹っ飛んだ。 ドンガラガッシャーンッ! 次いでお約束みたいに盛大に調度品を派手に壊して激突。 「お・と・う・さ・ん! なにやってるの、もう!」 「シ、シア……お前、学校はどうしたんだ……」 「とっくに終わってるよ! それで帰ってみれば誰も居ないし、裕也くんも居なかったからもしかしてと思って来てみたら……」 「お父様も、裕也さまが困ってるじゃないですか!」 「ネ、ネリネちゃん? いや、これはだね、裕ちゃんの事情を知って私たちなりに励まそうと……」 「それでどうして酒盛りになるんですか……」 救世主、シアとリン降臨。むしろ救いの天使か。 こうしてみると、共通して神王家と魔王家は娘に弱いんだなぁ。 なんにしても助かった……あのままじゃ飲まされたかもしれないし。明日も学校だから飲むのは勘弁したい。 結局、その場はシアとリンに助けられてどうにか窮地を脱する事が出来た。 けど一時的なもので、その日の晩に芙蓉家に神王魔王ご一家が来襲し、結局宴会騒ぎになったのは別の話。 「あ〜〜〜う〜〜〜」 で、その翌日。前日に日本酒やらワインやらやたら飲まされたから案の定二日酔い。 ノリで飲むことあるけどあんな飲んだのは初めてだ。 「裕也くん、大丈夫ですか?」 「大丈夫……ではないが、そんな休むほど悪いってわけじゃない。寝不足と二日酔いだから」 そう答えはするものの、こう言う日に限って体育の授業があるって悪夢。 「もう少ししたら行くか。ってそんな顔するなよ、大丈夫だって」 「でも……」 「大丈夫大丈夫。この程度どうってことないさ」 昨日1日で心身ともに結構なダメージを食らったが、動けなくなるほどじゃない。 まあ、今日1日大人しくしていれば明日には元に戻るだろ。 ……大人しくする事が出来れば、なんだけど。 「毎日親衛隊連中に襲われて鍛えられてるからな。このくらいで死にはしないって」 そう言うと俺はソファから立ち上がり、転がしていた鞄を手に取る。 「さ、そろそろ行かないと遅刻するぞ」 昨日1日で分かった事がある。 一度受け入れれば後は何とかなる。そんな風に悟った。 「あー、裕也くん、カエちゃん、おはようございます♪」 すると、待っていたかのようなタイミングで隣の純和風の門を抜けて、シアの元気な姿が路地へと出てくる。 「今から行くところですか? 良かったら一緒に行きましょう♪」 元気いっぱい。にこやかな笑顔が今日もその顔いっぱいに浮かんでいた。だが、それにしても…… 「元気だな……シアも結構遅くまで起きていたのは、俺の勘違いか……?」 「あれくらいなら、お父さんに付き合ってよく起きてますから。悪い男に騙されないよう、今から慣れておけって」 ……おじさん、ちょっと間違ってます。女の子を夜更かしさせるもんじゃありません。 ……これも若さか。 「別に断る理由もないし。一緒に行くか」 体の調子はすこぶる良くないが、これなら多少いいことが起きてもおかしくないかな。 「シアって学園への道とかはもう覚えたのか?」 「はい。1週間くらい前から引っ越しては来ていましたから。人間界の知識とか覚えるのに手間取っちゃいましたけど」 「あ、それでなんですね。別世界から来られたっていうわりにはそれほど違和感がなかったので不思議に思っていたんですけど」 「この8年、一生懸命勉強したんですけど。私って覚えるの苦手だから」 「ああ、それアキラから聞いた。何度も勉強見てやったのにとか」 「あ、あはは……アーくんには頭が上がらないです」 「俺たちからすればあの青山アキラに勉強見てもらってたって言うのはよっぽど驚きだけどな」 「そうですよね……」 基本的に孤高を好む性格のアキラが、何度も何度も勉強を見ているって言うのはイメージしづらい。 まあ、頭いいし教えるのは造作もないことなんだろうけど。 「おい、シアちょっと待て!」 突然背後から声がした。振り返れば筋肉質な和服の大男。一度見たらなかなか忘れられそうにない人、登場。 ここ数日に某宗教の信徒が激減したニュースをさっき見た気がするのは気のせいだろうか。 ハッキリ言おう。事実だ。 「お父さん? どうかしたの?」 「どうかしたじゃねえだろ。お前らだけでいけるのか? なんでも人間界には『不良』、とか言う犯罪集団がいるらしいじゃねーか」 ……それ、どこのテロ組織っすか? いや、確かに似てるような気がするけど……そこまで危険というわけでもないし。 「俺はもう心配で心配で……何なら今すぐ特殊護衛部隊を編成して、道行く怪しげな連中に片っ端から天罰を……」 「もう、大丈夫だよ。裕也くんだって一緒だし」 シアが苦笑しながら俺を見る。それを追うように神王のおじさんも俺へと視線を動かし、にかっと笑った。 「おう、裕也殿。なかなか早いじゃねーか。感心感心。ぐうたら寝てるような野郎に漢の野望は叶えられないからなあ」 いや、あなたはいったい俺に何を叶えろと? 「もし何かあったらすぐに言ってくんな。生まれてきたことを、魂の底から後悔させてやるからよお」 「何もそこまで過激にしなくても……相手はその、大体が普通の一般人なわけですから……」 「おう、そうかいけねえいけねえ。堅気の衆を困らせたら神王の名折れだな」 堅気じゃない神様って言うのも初めて聞きましたよ。 「まあ、もし堅気でない連中に何かされたら遠慮なく言ってくんな。地獄なんてのはわざわざ死ななくても体感できることを教えてやんぜ。この拳でな」 「あ〜……その〜……」 返答に困る俺。とりあえず非殺傷設定は約束してくれるのだろうかなんてほかに考えるべきことがたくさんあるんだろうけど、なぜかそっちを先に考えてしまった。 と、すかさず楓が苦笑気味にフォローを入れる。 「だ、大丈夫ですよ神王様。裕也くんは管理局に登録されている嘱託魔導師で、凄く強いんですから」 「管理局? ああ、確かアキラ殿が所属してるって言うあれか。裕也殿も所属してるのか?」 「ええ、まあ……フリーランスですけど」 「ほほう……それなら安心だな。まっ、シアのことよろしく頼んだぜ。裕也殿よぉっ!」 ぶうん、と異様な音がして、その巨大な手が俺の背中を叩く。 「〜〜〜〜〜!」 あまりの衝撃で呼吸が止まった。見掛け倒しの筋肉じゃないらしい。外見どおりの破壊力だ。 「やあ、神ちゃん。ずるいなあ、朝から楽しそうじゃないか」 そして、止めを刺すようなタイミングで響いた声。 どこか二枚目じみたその声に振り返れば、やはり二枚目じみた方がそこにはいた。 「やあ裕ちゃん。早起きは三文の徳とはよく言った。すがすがしいねえ」 「そこまで早起きしてませんが……」 って言うか徹夜です。 「いやあ、表が賑やかなもんでもしやと思ってみれば、まさしく大正解だったようだ。ネリネちゃんのこともよろしく頼むよ」 魔王のおじさんが言った瞬間……、 「裕也さま、皆さんも」 家の門が開き、中から静々とネリネが姿を現した。 「おはようございます」 そしてシアとはまた違った、上品さを包み込んだ笑顔を浮かべ、軽く頭を下げる。その笑顔は素直にきれいで、思わず顔が赤くなってしまう。 「ほう、裕ちゃんも、やはりネリネちゃんの笑顔には1発KOかい」 「い、いや! そんなわけじゃ……」 慌ててごまかそうとする俺を、魔王のおじさんは実に楽しそうな表情で、 「いやあ、構わないとも構わないとも!」 バンバンと背中に紅葉の雨を降らしてくれた。 そしてそのまま、力いっぱい俺を抱きしめる。 「さあ、いつでも『パパ』と呼んでくれたまえ! マイ! サン!!」 ちょっ、なんでそうなるの!? 「あー、悪いがそこまでだ」 横から割り込むように聞こえた言葉。伸びてきた手が俺を掴み、力ずくで2人を引き剥がした。 「残念だが、裕也殿はシアと結婚して神界を継ぐんだぜ。悪いがまー坊は父親呼びはできねえだろ」 「いやあ、残念だけどこれだけは譲れないよ。裕ちゃんはネリネちゃんと結婚して魔界を継いでもらわないと困るわけだし」 「ほう……だったら今ここでケリつけてみるか?」 「手っ取り早いかもしれないねえ……」 睨み合う2人の前に青白い光の玉が出現する。それは見た目こそ小さいものの、膨大な魔力が凝縮されていることは容易にわかる物体だった。 「えー……シアさん、ネリネさん? あの光球って……尋常じゃない魔力が篭っているようなんですけど……大体、どんな結果に?」 いや、大体結果は分かってるんだ。だからこれは、いわゆる答え合わせみたいな物で……とりあえず、その娘さん2人に聞いてみる。 「確か2人が前に喧嘩したときは……」 頬に人差し指を当てながら傾げるシアに、ネリネが微笑みながら答えた。 「魔界の街が2つほど消滅しました。すでに誰も住んでいない街でしたけれど」 「「消滅!?」」 「待て待て待て待てぇぇっ! こんな朝っぱらからハルマゲドン起こす気ですかあんたたちは!!」 シャレにもなんねぇよ! 死ぬ! 跡形も残さず死ぬ! 「大変申し訳ないですが、俺は現在誰かと結婚するなんて考えてません!」 「ってーと、今現在付き合っている奴でもいるのか?」 「……居ないです」 「美しいお嬢さん、あなたは裕ちゃんの事をどう思っていますか?」 「え!? あ、あの、わ、私は……」 「そこ! 楓はあくまで幼馴染です! 変な勘ぐりしない!」 「おいおい、そいつはいけねえなあ。こんなベッピンさんと一緒に住んでて手も出さないなんて、それこそ失礼ってもんだろ」 「まったくだね。まさか裕ちゃん、男色じゃないだろうね」 「全力で否定しますっ! って言うかあんたたち手を出すってまずいでしょ!」 誰か……この2人を止めてくれぇぇ……。 「駆けろ!」 「刻め!」 不意に響く2つの声。 「「ウイングエア・ソニック!!!」」 おじさんたちの前後で2つの影が踊り、映し鏡のようにまったく同じ動きで斬撃を放ち、斬り抜ける。 挟まれたおじさんたちは反応できず、打ち上げられて地面に叩きつけられた。 「朝っぱらから問題を起こすな、お前ら」 「アキラ、セイバー……?」 現れた2人の人物――アキラとセイバーに俺は目を丸くする。 セイバーは相変わらず見えない武器を、アキラは半月状の刃を持った大剣を肩に担いでいた。 「急に巨大な魔力反応が発生したからもしやと思ってきてみれば……案の定だったな」 「この2人がケンカを始めたらこの街なら跡形も無く消滅しかねませんでしたね」 淡々と言葉を交わす2人。 にしても、2世界の王を遠慮なく、しかも一撃で倒せるのは世界広しと言えどもこいつらくらいだな……。 「あはは、それは災難だったね」 「笑い事じゃないっての……」 そんな騒動のあと、カインとマユラと合流してその事を話したら笑われてしまった。 「いきなりデカイ魔力反応が出たと思ったらすぐに消えたのはそのためか……」 「あいつらのケンカで街1つ消されたらたまらないだろう」 苦笑するカインにアキラが淡々と答える。 普段通りポーカーフェイスを装っているが、内心は物凄く頭痛めているに違いない。 「けどおじさんたち、大丈夫なのか? なんかありえない方向に腕か足が曲がってように見えたんだが……」 「気のせいだ忘れろ。それにあの程度で死ぬならとっくに死んでる」 「す、凄い評価ですね、青山くん……」 「事実なので何も言い返せないです……」 なるほど、アレもよく起きる騒動の1つなのか。 ご近所の皆さん、朝っぱらから騒々しくてすみません。 「か、楓さん!」 そんな時、楓を呼んだ声がして俺たちは声のした方へ顔を向ける。電柱のすぐ脇に、見知らぬ男が突っ立っていた。 「は、は、は、初めまして。ぼ、僕はKKKの……」 誰か、って聞くまでもなかった。いつもの奴らか。 「?」 「あの……こちらの方は?」 事情を良く知らない転校生組は、あれが何なのか分からないらしい。俺はため息をつきながら簡単に説明してやる。 「あいつはKKK……「きっときっと楓ちゃん」とか言う、楓の親衛隊。いわゆるファンクラブだな。非公式の」 「まったまった! その前に俺がマユラちゃんに告白をぉっ!」 するすると電工みたいにスルスルと電柱から男が1人、何かを叫びながら降りてくる。 「で、あれはMMM……「もっともっとマユラちゃん」とか言う、マユラの親衛隊。同じく非公式のファンクラブ」 「ふ〜ん……いいなぁ〜私も欲しいな〜」 「うん、やめとけ。親衛隊とか言うけど狂信者の集団だ」 ふとそこで貧乏お姫様の顔を思い浮かべたのはなぜだろう……いや、あなたの登場はまだ先ですって。 「ちょっと…まだ自己紹介の途中……」 あ、ごめん。完全に忘れてた。 「待て待てええーーーーい!」 するとその自己紹介をしようとしたKKKその1をさえぎるような大声がし、チャリンコのベルを鳴らしながら何かが猛スピードで近づいてくる。 「このチャリンコ山口がシアちゃんに告白するのが先だぁぁーーーーっ!!」 「いや! まずはこのミリタリー大下がネリネさんに告白するでありますぅ〜〜〜!」 声がした方へ視線をめぐらせれば、いつの間にか俺たちの背後に居たミリタリー研らしき男が平伏で、ネリネのスカートの中を覗き見しようとしていやがった。 ネリネと、そのそばに居たシアは驚いて若干跳びはね、シアはおびえて俺の腕に抱きつき、ネリネはそのミリタリー何とかのほうへ向きながらカバンで後ろを隠した。 生憎、今のこの状況で腕を占めている柔らかい感触を味わっている余裕なんて一切ない。 「裕也くん、なんなのこれぇ〜!?」 「何って言われてもなぁ……」 明らかに普通の親衛隊と何か違う。 「邪魔立てするなら容赦しないよ、結城裕也!」 「いいからそこを退きたまえ、結城君」 「ぼ、ぼ、僕の名前は……」 正体不明の4人に取り囲まれ、そして俺は皆にぎゅうぎゅうに押し詰められて……ああ、天国と地獄ってまさにこれか。 「……はぁ。やっぱり朝の恒例か……」 毎度毎度騒がしい奴らだ。 大人しくしたい時に限って回りは大人しくさせてくれないから困る。 あー、どうしよう。俺今体調最悪なんだけど。カイン、任せていい? あ、ダメ? だよねぇ。俺ら揃ってターゲットだし。 「おい貴様ら」 不意に、沈黙を保っていたあの方が口を開いた。 1歩前に進み出て、冷め切った目で4人組を見下ろす。 「それは、俺に対する宣戦布告と受け取ってもいいと言うわけだな?」 「あ、青山……」 「アキラッ!?」 一瞬で青ざめる4人組。 そりゃそうだろう、青山アキラにマジでケンカ売るなんてバカは世界中を探してもどこにもいない。 ……いや、1名いたっけ。タメ張れる人。 「シアとリンの登下校中は可能な限り護衛するようあの親バカ2人から依頼されていてな。2人の身に危険が及ぶのなら武力行使も許可されている」 「お前……いつのまに」 「前金さっき貰った」 あ、あざとい。そしてがめつい。 「と言うわけでだ、どこの誰かは知らないし興味もない。だが俺にケンカを売ったんだ……覚悟は、出来てるんだろう?」 ニイィッと口の端を釣り上げ嗤うアキラ。 女子なら大抵見初めるらしいが、この笑みは悪魔の笑みと言うのを俺たちはよく分かっている。 「モモタロス。暴れてもいいぞ」 「モモ?」 不意に呟いたアキラに俺は首をかしげた。 モモがなんだって……と言おうとしたら突然アキラから赤いオーラが放たれ、思わずぎょっとする。 「――なんだよなんだよ、久しぶりに暴れられると思ったらこんな奴らかよ。えぇ? アキラよぉ」 「……へ?」 急に雰囲気……おまけに口調まで豹変したアキラの姿に、ぽかんとなる。 いや、俺だけでなくカインやマユラ、楓もだ。 「ま、ストレス発散にはちょうどいいか。――ってなわけで俺、久々に参上ッ!!!」 ビシッと決めポーズ(?)らしき物をとるアキラを、俺はまじまじと見た。 え、なにこれ。アキラどうしたの? なにこれ、キャラじゃないだろ。クール&スタイリッシュがモットーって以前言わなかったっけ? 「あ、あのー、アキラ……?」 「今のアキラはアキラではありません」 恐る恐る声をかけようとしたら、見計らったようにセイバーが溜め息をつきながら答える。 「今アキラに憑依しているのはモモタロス……イマジンと呼ばれる、未来から現代にやってきた人類の精神体です」 「み、未来?」 「アキラは時空剣士で、時の運行を守る役目も負っていますから」 え、え? ちょっと、ちょっと待って。なにそれ理解が追いついていないんだけど。 「簡単に言えば幽霊みたいな物です。基本無害なので気にしないでください」 「あの、セイバーさん。今、兄さまに入っている方は……」 「安心してください。ウラタロスではなくモモタロスですから」 「モモちゃん……ってことはあの赤鬼みたいな人だよね。そっかー」 「シアとリンは知ってるのか?」 「えっと、少しは。何度か会った事がありまして……」 その時の事を思い出したのか、なんともいえない微妙な表情を浮かべるシアとリン。 「私たちは先に行きましょう」 「けど……いいのか?」 「ああなったらしばらくは収まりません……」 疲れたように溜め息をつくセイバー。 その様子から察するに以前にも何度かあったらしい。 「さあ、行くぜ行くぜ行くぜぇー!」 アキラのほうに視線を戻すと、俺たちのことなんかまるで気にすることなく4人組に突っ込んで行く。 「……行くかー」 結論、触らぬ神に祟りなし。 |
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2012-05-04 Fri 23:03
蒼き空の下で
PHASE-02 神にも悪魔にも凡人にもなれる男 「裕也くん」 …………。 「裕也くん、もう朝ですよ」 誰かが呼ぶ声がする。 ……あれ? 朝? 「裕也くん」 瞼を刺激する強い光に一瞬眉を潜め、まだしがみついてくる睡魔を振り払って目を開けると…… 「裕也くん、おはようございます」 「かえ、で……?」 とびっきりの笑顔を浮かべた楓の姿があった。 「んえ……」 半分寝ぼけた状態の俺は体を起こし、現在の状況を確認する。 現在、時刻は7時5分。場所は俺の部屋。いつも通り楓が俺を起こしに……ん? 「なんで俺机で寝てんだ……?」 おかしい、いつもはベッドで寝ているはずなのに、今日は机を枕代わりにしていた。おかげで体が変な感じで凝っている。 なんで? と思いつつ俺は体を起こすと、俺の姿を見た楓がきょとん、と目を丸くした。 「裕也くん、頬にカードがついてますよ」 「ほえ?」 苦笑気味な楓に言われて頬に触れると、確かにカードがくっついている。ぺりっと剥がすと「手札断殺」がくっついていたらしい。 ……ああ、思い出した。昨夜デッキを調整しようとしてそのまま寝たんだ。うん、道理で机の上にカードが散乱している訳だ。 「あのあと寝ちゃったんですか?」 「みたい……だな」 楓が差し入れで紅茶を持ってきてくれたのが確か11時半過ぎ。調整は結局新たに組み直しにまで発展し、そのまま寝たらしい。おまけに未完成のまま。 「でも裕也くん、大丈夫なんですか? 今日は英語の小テストがあったはずですけど……」 「……え?」 小テスト? 英語の? 「今日って小テストあったっけ?」 「はい。先週、授業の終わりにするって言っていましたけど……裕也くん、忘れていたんですか?」 「覚えていたら暢気にデッキ組んでない……」 ずーん。ぬ、抜かったぁぁ。そういえばそんな事を先週言われていたような気もしなくもない。 幸いなのは英語だということか。ミッドの言語も英語に近いからギリ通用する。よかった、ベルカと併用して学んでおいて。これが古文か、世界史だったら……特に後者が怖い。主に先生が。 「……まあ、今から慌てて勉強する暇もないしなるようになるしかないかぁ」 「大丈夫ですよ。裕也くん、理系と英語得意ですから」 「うん、まあ、成り行きでね」 生き残るために学んだ術がこんな形で活かされるとは思わなんだ。いや普通順序逆のはずなんだけどね。学校で勉強して覚えるものなんだけどね。 まあ、ここは一日の元気の源、楓の朝飯を食べて力を蓄えるか。 「それじゃあ裕也くん、着替えをどうぞ」 「ああ、ありがと」 楓が差し出した着替えを受け取り、ふと『あれ』がいないことに気づく。 「フラガラッハは?」 「さあ……? 私は見てませんけど」 あっれぇ? っかしいな。昨日どこにやったんだっけ。俺がデッキを組み直しているのをアイツ見ていた記憶がするんだけど。 「おーい、どこ行ったノンビリマイペースデバイスー」 《それって私のことですか?》 と、唐突に声が響いてベッドの毛布の中心が盛り上がった。俺は席を立つとベッドに向かい、毛布を剥ぐ。 《はうっ、直射日光が眩しいですマスター。お願いですからあと5分寝かせてください、ベッドから離れたくないです》 「デバイスの癖に何人間心理に則った様な行動してるんだお前は。いいから起きろ」 《ああっ、もっと寝ていたいのにー》 だからこいつはデバイスの癖にどんだけ寝るつもりだ。 「おはようございます、フラガラッハ」 《あ、楓さん、おはようございます。今日も相変わらずかわいいですねー》 「だーかーらー、お前デバイスなのになに楓に口説き文句言ってんだよ!」 《いえ、後半はマスターの心の声を代弁してみました》 「言わんでいい!」 《『思ってねーよ!』って言わない辺り、同じこと考えてたんですねマスター》 ぐっ。このデバイス、余計な事を……。恐る恐る楓を見てみると、案の定顔を赤くしていた。 「……朝ご飯の支度、もう出来ていますから早目に降りてきてくださいね」 「あ、ああ……」 逃げるように部屋を出て行く楓を俺はただ見送るしか出来なかった。 フラガラッハめ……余計な事いいやがって。 食事を終えた俺たちは揃って家を出る。 そういえば……と俺は不意に思い出し、楓に尋ねてみた。 「今回のおじさんの出張、長いのか? 海外って言ってたけど」 「そうみたいですね。3、4ヶ月かかるって言ってました」 「いいのかよ、そんな長い期間若い男女を2人っきりにさせておいて」 「それだけ裕也くんのことを信用しているんですよ」 「そうか? 出かけるときに『親公認だからがんばるように』って言われたけど……なんのこっちゃって事なんだよな」 「ひぇっ!?」 突然楓がびっくりした声を出し、俺は不思議そうに楓を見た。 「ただでさえ俺と同居してっから男っ気が無いってのに……もう少し娘の将来を考えろっての」 「多分……十分すぎるほど考えてると思います」 「へ?」 「な、なんでもないです!」 《楓様、意味無いですよー。マスターってニブチンですから》 「おいこら、自分の主に対してニブチンってどういう事だ」 《事実を言ったまでです。むしろ、その愚鈍だからこそハーレムが作れているのでないですか?》 「お前はどこでそんな言葉を覚えてくる。今すぐAIを初期化してやろうか?」 《そうなればマスターの戦闘能力は0になっったも同然です。普通の武装局員より役に立ちませんね》 この……ああ言えばこう言う。毎度の事ながらこのピコピコ光るミニチュアの剣に対し何度殺意を覚えたことか。 「2人は今日も仲がいいですね」 「楓、これ仲がいいっていえるか?」 「だって裕也くんとフラガラッハって、いつも口ゲンカはしますけど本気でケンカした事ありませんし。なんだかんだでやっぱり仲良しですよ」 クスクスと楽しそうに笑う楓。うーん、なんか釈然としないものがあるんだけどなあ。 「おーい、裕也くーん! カーエちゃーん!」 「おー、おっすマユラ、カイン」 「おはようございます。マユラちゃん、カイン君」 「おはよう。どうにか合流できたな」 「その口ぶりだとマユラが出るの遅れたってところか?」 「あ、あはは〜。AAAランクになれたから昨日は一晩中浮かれてて」 しょうがないなぁマユラの奴。 まあ、念願のAAAまでなれたから無理もないか。 「おはようございます、ユウヤ、カエデ、マユラ、カイン」 「おっ……」 横から凛とした声に呼ばれ、俺はそっちに視線を向ける。 俺たちと同じ葵学園の制服を着た男女の2人組が、そこには居た。 少女の方は砂金のような金髪に碧眼。美しく整った顔立ちは自然と通りかかる人も目で追って行く。 方や、少年のほうは対照的に銀髪に蒼眼。モデル並みのルックスで、氷のような印象を瞬時に思い起こさせる。 知らないはずはない。と言うか、この学園でこの2人を知らないはずがない。 恐らく、この世界だけでなく、他の次元世界にも知らない人間は殆ど居ないだろう。 「おーっすアキラ、セイバー」 「ああ。お前らは相変わらずだな」 ある意味近寄りがたい2人組だが、俺は何の躊躇いもなく声を掛けた。 青山アキラ、セイバー……世界最強の魔剣士と、それに仕える姫騎士。 現代においてその名は超越的存在として例えられるほど、特にアキラは有名人だ。 ミッド世界においては時空管理局に登録されている魔導師の中でも唯一、SSS+を上回るランク、「EX」を所有し、地球においてはかつて魔界を支配していた魔帝、「ムンドゥス」を討ち、さらにムンドゥス・マギクスの危機も救った伝説的英雄。 数々の偉業を成した彼は、あー……まあとにかく、「なんかとてつもなく超凄い奴」ってことだ。 「今、凄い大雑把な紹介をされたような気がするが気のせいか?」 「地の文に突っ込むなよ……」 ジト目で訊くアキラに、俺は内心ぎくりとしながら突っ込み返す。 俺とアキラの仲は友好……ってほどでもないが、それなりに親しい間柄だ。 故に、こいつとバトルする事だけは当然避けたい。はっきり言って俺は指先一つで返り討ちに遭う自信がある。えっへん。 自慢できる事じゃぁないよな。 「今日は学校に来るんだな」 「ああ。久しぶりに暇ができたし……少し、用事があるんでな」 「……学校に、か?」 カインが聞き返す。 アキラはその有名っぷりから様々な国・世界を飛びまわって多忙な日々を過ごしている。こうして学校に顔を出す事も稀な事だ。 そのアキラが、学校に用事があると言うから珍しい。 「あの事を話さなくて良いのですか? アキラ」 「どうせもうすぐだ……話すのはその時でも良いだろう。それに、それで俺は今頭を痛めているんだぞ、セイバー」 「す、すみません……」 びくりとして申し訳無さそうに頭を下げるセイバー。 殆ど不機嫌そうな顔で毎日を過ごしているように見えるアキラだが、今日は普段に比べて一層不機嫌そうだ。 「本心を言えば来たくは無かった……だが来ないと来ないとで余計ややこしくなるし……ええい、なんだってこんな事になるんだ……」 ぶつぶつ何か呟いているアキラだったが、生憎とその内容は聞き取れない。 「なんか、今日のアキラくん今までで一番不機嫌に見えるけど」 「そうですね……今朝何かあったんでしょうか?」 ヒソヒソと俺の後ろで話す楓とマユラ。 まあ、こんな露骨に不機嫌なアキラはそれだけ珍しいんだよな。 えーっと、ここまでの情報を整理してみるとアキラは恐らく他に用事があっても学校の事を優先しなきゃいけないらしい。 で、今日学校には……転校生が2人、来るんだよな。 ……ふと、脳裏に昨日会った2人が浮かび上がった。 ……………。 いや、まさか……ねぇ? 「まあ、遅かれ早かれやってくる事態だ。裕也、お前に伝えたる事がある」 「なんか珍しい……って言うかなんだよ?」 「負けるな」 「へ?」 「がんばれ」「いや、なにを!?」 「癪だが今回の件に関しては俺も関与してしまった。だから少なからず助力はしよう。だから諦めるな。根性で乗り越えろ。最後まで諦めるな、諦めずに生き残ったものにこそ勝利が齎される」 「えーっと……」 「今言えるのはそれだけだ。先に行く。セイバー」 「は、はいっ。それではまた後で」 先を行くアキラと、慌ててそれを追いかけるセイバー。 その場には何がなんだか分かってない俺たちだけが取り残されていた。 「……なんだったんだ、結局」 「俺に聞くなよ……」 謎の激励をされた俺自身よく分かってないんだし。 なんにしてもセイバーが気の毒で同情した。 「なんか急に学園に行くのが嫌になってきた……」 「気持ちは分からなくはないが……今日、小テストだぞ」 「なんだよなぁ……単位も落としたくないし、腹括るしかないのかー」 人生、諦めが肝心って奴だ。 そう思ってがっくりと肩を落とした時、不意に背後から誰かに抱きつかれた。 「う〜……」 「その唸り声、カレンか?」 「ん〜……? 裕也ぁ? 何で裕也が私に抱きついてるのよ……」 「逆だしこっちのセリフだ。なに人の背中に抱きついてんだよ」 「……ねむい」 「お前な……」 またも俺は肩を落とした。 紅月カレン。俺のクラスメートで入学してからの腐れ縁。 見た目はスタイル抜群で可愛い部類に入るんだが、結構男勝りで面倒くさがり、低血圧で朝はこんな風にめっちゃ眠そうにして徘徊している。 「おいカレン、裕也から離れたらどうだ?」 「ん〜? あー、おはよーカイン。楓にマユラも」 「おっはよ。相変わらず低血圧だねカレン」 「今日は小テストあるから遅くまで……」 「勉強していたんですか?」 「起きていようと思ったけど10分も持たずに寝た……」 「おいおい……」 呆れる俺たち。 まあ、カレンってこれでも成績優秀だから問題なさそうだけど。 それに一応母国の言語だから苦手ってわけでもないし。 あ、カレンってハーフで、母国の公用語が英語だから流暢なんだよ。本人は日本語のほうが楽って言ってるけど。 「ってかいい加減に離れろって」 「このまま学校まで運んで……」 「何で運び屋やんなきゃいけないんだよ、俺が!」 「ぐー……」 「ね・る・な!」 引っ付いたまま眠りこけるカレンを引き剥がそうと、手を伸ばしたその時―― 「待っていたなり! 結城裕也!」 同時にドンッを地面に叩きつけるような音。 音のほうへ顔を向けると、すぐそばの階段の一番上に、野球部の部員らしき男が仁王立ちでいた。 なぜ野球部か分かったかと言うと、単純明快。ユニフォーム着てるから。着てるから「辛うじて」この男が野球部員だってわかった。 けど、他は怪しい。だって学生には思えないほどの巨漢だから。パッと見、30とか過ぎててもおかしくない。 頭のてっぺんが禿げてるからもっと上かも。って言うかあれだな、こいつ鉄拳の平八っぽい。 「我輩は芙蓉楓親衛隊「きっときっと楓ちゃん」略して『KKK』の、マグナム坂井なり!!!」 「離れろってのカレン! 重いだろ!」 「ちょっと〜、女の子に対して重いってのは失礼でしょーが」 「思いっきり寄りかかられたら重いわ! 離れろっつーの!」 「無理眠い」 「……なに言っても聞かないな、これは」 「朝のカレンちゃんって会話のキャッチボールが成り立ちませんから」 「裕也くん、観念して運んでいけば?」 「何で俺なんだよ!」 「おいこら聞かんかい!」 ダァンッ! ひときわ強烈な打撃音が響き、騒ぎはしんと静まる。 えー、面倒ごとには関わりたくないのに。 「はいはい……わかりましたよー。で、なんですか三島さん?」 「坂井だと言ってるだろうが結城裕也! とにかく! 楓さんを掛けて我輩と勝負だぁ!」 「カイン代わって」 「お前のご指名だろう。俺に振るな」 「何を代打要請しようとしているんだ結城裕也ぁ! ええい、覚悟ぉっ!!」 有無を言わさず平八……じゃない、マグナムなんたらが釘バットを振り上げ、階段から飛び降りてくる。 おいおい、話し合いが終わってないのに仕掛けるやつがあるか。卑怯くせぇ。 「で、なんか勝手に賞品に仕立て上げられている楓の意見はどうでしょう」 「え……とぉ」 「ぬおおおおおっ!!!!」 「私はもう、裕也君に身も心も捧げたんです!」 楓の声に重なるように、ほぼ同時に俺の横に火の玉が生まれ、一直線にマグナムなんとかに放たれる。 俺もびっくりな楓の回答には同じくマグナムもびっくりで、間抜けな顔で急に失速。その顔面を火の玉が見事打ち抜いた。 こっそり着弾時炸裂効果に設定していた誘導弾はパンッと音を立てて炸裂し、マグナムは巻き戻ししたように再び階段の頂上へさようなら。 その場には手放した釘バットが、アスファルトに突き刺さっていた。アスファルトに突き刺さっていた。大事な事なので2回言いました。 「あ、すみません……捧げた「つもり」の間違いです」 「楓さん? 遅い、遅いよ」 「え……?」 かわいらしく小首を傾げる楓。天然って恐ろしい。 「ぱうっ」 「おごっ!?」 突然、背後に背負っていたカレンが奇声を上げると、謎の衝撃を受けて俺はカレンごと地面に転倒してしまった。 「ちっ、防いだか! しかし女子を盾にするとはなんと言う悪党だ、結城裕也め!」 「ま、また親衛隊か……? って言うかこれはカレンが悪いだろ」 どこからとも無く響く声に突っ込み返す。 相手はスナイパーの親衛隊か。 「我が名はサバゲー同好会所属、マユラ・ラバッツ近衛護衛師団「もっともっとマユラちゃん」略して『MMM』のパイソン秋馬! 宿敵結城裕也! 今日こそ我らの鉄槌を下してやる!」 「今度はマユラのか……」 立て続けにエンカウントするとはついてない。 しかしどこから狙撃してきたんだ? 俺の感知範囲外って事は結構離れてるぞ。 けど近くから声がする。サバゲー同好会って言ってたしトランシーバーとか使ってるのか。 「喰らえ、神の矢べしっ!?」 「……べし?」 「裕也くん、8時の方向。距離200」 パイソンなんとかの奇声に俺はきょとんとしながらカレンを背負い立ち上がる。 すると、マユラの冷静な声がして、俺は指示された方角を見た。 見ると、屋根の上に今まさに仰け反って倒れようとしている人影が一つ。 近くにいたマユラを見ると、デバイスだけを展開してこの場から狙撃したらしい。 「さすがだなマユラ……あの距離を当てたか」 「伊達にAAAになったわけじゃないよ。今も自己ベスト更新してるんだから」 賞賛するカインにマユラはえへんと胸を張って答える。 さすがに視野の広い後方支援担当は見る目が違う。 「しかし、今日も今日とて懲りないな、親衛隊の連中」 「いつもの事だろう。まあ、こんな事に慣れてしまったのは俺たちもだいぶ麻痺してきたんだとは思うが」 同意するカインに俺も内心同意した。 こんな毎日襲われるのに慣れてしまったら人としてどうかと思うけど、最早日常の一部として組み込まれたからなんて事ない。 「よっこらせ、と」 「結局カレンちゃん背負って行くんですね、裕也くん」 「このまま放置したら後が怖いからな」 で結局、カレン背負ったまま俺たちは学校に向かう事になった。 「ひー、へー、はー……ようやくついた」 いつもと同じ時間に出たのにいつもよりも少し遅い時間に学園に到着。 原因は予期せぬ運搬物を受けるハメになったから。 さすがに人1人抱えて来るのはキツイ。羞恥も含めて。 とは言え魔力で身体強化したからそこまできつくはなかったけど、予期せぬ消耗は痛手と思う。 「けど良かったじゃないか、今日は襲撃が2回だけで」 「まあそうだけどな……あれから誰も来なかったし。おいカレン、学校着いたぞ。起きろって」 「このまま教室まで〜」 「こいつは……」 同じクラスだからやってやるけど、クラスが違ったらどうするつもりだったんだ。 いや、この状態のカレンの事だ。確実に運んでと言うだろう。 「なんだって、朝っぱらから、こんな目に遭わなきゃいけないんだっ」 「……人徳?」 「意味おかしくね!?」 「裕也くんって優しいですから」 「それで余計なトラブルに巻き込まれるんじゃない?」 「ぐぬぅ」 言いたい放題言われて何も言い返せない。 ふて腐れながら下駄箱で内履きに履き替える。 ちなみに寝てるカレンは楓が履き替えさせてくれた。楓も人の事言えないよな。 で、教室に向かう途中、「それ」に俺たちは目を留めた。 「……何してんだお前ら」 「ん? おお、結城たちか!」 「何で紅月背負って……ああ、いつものか」 仲丸とアシッド。どちらも1年からの腐れ縁。B組でも有名な問題児ペアだ。 「保健室の前で何やってるんだよ。怪我病気でもしたか?」 「なわけないだろ。と言うより怪我病気してもここには来たくないわ」 「じゃあ何してるんだ? どうせまたロクでもない事たくらんでいるのか」 「ロクでもない事ではない! いいか、今ここには3年の風椿玖里子がいる! この意味がわかるか!?」 「よし教室行くかー」 「待つよろしね!」 嫌な予感が的中して撤収しようとしたら、仲丸とアシッドに両サイドから肩を掴まれた。 「なぜそこでスルーするんだお前は! 弱みを握ればこの学校を乗っ取れるんだぞ!?」 「そりゃ確かに今の社会は情報と魔法が使えるか否かで左右される社会で、この学園は風椿家が経営しているって言うのも分かる。けど俺に何のメリットがあるんだよ」 「アホかお前は!? お前の言う通り今の世の中情報と魔法が全て。だが肝心の魔法を使える回数に関して、我が学び舎の平均が8000なのにおまえは何回だ?」 「何回だったっけなー」 「忘れるとは何事だー!」 いや、だって俺そっちの魔法使わなくても生きていけるし。正直忘れていてもなんら問題がないレベル。 つか実際ここ数年回数消費系統の魔法使ってないから回数なんて覚えてない。 「お前はこの学校をエンジョイ出来ていると思っているのか!?」 「ボチボチ?」 「ええい、なんと言う野心の無さだ! 俺は情けなくて涙が出てくるぞ!」 「お前らに同情されるのは死ぬほど屈辱って言うのだけは分かる。あ、先行ってて皆」 とりあえずこれ以上は楓さんが爆発するのを避ける為早めに手を打っておこう。 俺の意図を理解したカインとマユラは頷き、きょとんとしている楓を押して教室に行ってしまう。 「で、つまり何が言いたいんだ? 出来れば3行で頼む」 「つまり、だ!」 「俺たちに協力して、」 「「学園乗っ取ろうぜ!(キラッ☆)」」 プチッ。 「銀河の果てまでブッ飛べ!」 別に3行で済ませたとか、ロクでもない事に協力しろとかはまだいい。慣れてるし。 けど「キラッ☆」、テメーはダメだ。万死に値する。 有無を言わさず膨大な魔力を圧縮制御し、炎熱変換する。 手の上に巨大な火球が形成され、俺は2人に叩き付けた。 チュドーンッ! 派手な爆発エフェクトとサウンド。 威力と効果範囲を重視し、有効射程を捨てた近距離炸裂弾は真紅の爆発と爆炎を巻き起こし、バカどもを一掃する。 後には炭化した何かが2つ、廊下に転がっていた。 「相変わらずこう言う魔法は一流ねー」 「なんだ、起きたのかカレン」 「あれだけ騒いでれば嫌でも起きるわよ」 背負っていたカレンが寄りかかりながら声を掛けてきて、俺は視線をそっちに向ける。 「ふあ〜あ……いつもの事とは言えあんたたちも好きよね」 「好きでやってんじゃない」 「ふ〜ん。にしても見事にクロコゲね。生きてるの?」 「ちゃんと非殺傷設定にしてあるから大丈夫だろ。これでも嘱託魔導師だぞ?」 「そう言えばそうだったっけ。あ、和美だ。オハヨー」 階段を降りて来たクラスメートの松田和美を見かけたカレンが、俺に寄りかかったまま手を振る。 「ああ、結城、カレン……まあ、そっちのそれは後にして、仲丸たち知らない?」 「ありがとうスルーしてくれて。で、質問に関して言うとその炭化している2名がそれだ」 そう言ってクロコゲた物体を俺は指差した。 「また派手に焦げたわね……ま、いいわ。それじゃあ私こいつらちょっとしばいてくるから」 「あいよー。HRまでには戻ってこいよー」 2つのこげた物体を掴み、去って行く松田を俺は手を振って見送る。 うん、良い事をしたな。一日一善とはよく言ったもんだ。 「でだカレン。いい加減降りろ」 「教室までお願い」 「……報酬は?」 「ジュースとパン奢るわ」 「それで手を打ってやる」 取引成立。いざ教室へ――と思ったら唐突に保健室の扉が開いた。そして中から金髪の女性が出てくる。なぜか下着姿で。 ……ああ、そう言えば仲丸たちが覗きどうこう言ってたっけ。 「全く、またB組の馬鹿ども?」 しかも出てきたのは仲丸とアシッドが狙っていた風椿玖里子だ。 おお、これはいけない。速いとことんずらせねば。 「しつれーっしゃしたー!」 適当に謝って目を逸らし、一目散に教室に駆け出した。 赤……いや考えるな思い出すな。 「とーちゃく、と」 「ありがと。ふあ〜あ〜……」 幾つかトラブルに見舞われたが、どうにかクラスにたどり着く事が出来た。 入る前にカレンを起こして降りてもらって、一緒に教室に入る。 が、入った瞬間目の前の光景に俺たちは揃ってぽかんとした。 「……この学校はいつから女子校になったんだ?」 「さぁ……?」 仲丸とアシッドは俺がぶっ飛ばしたからともかく、一部を除いて他の男子が根こそぎいなくなっていた。 「2年とB組の神隠し?」 「売れなそうなタイトル……」 「てかなして?」 迷宮入りしそうな事件(別に事件じゃないが)に発展しかけたその時、 「単純明快、噂の転校生って奴なのですよ♪」 「あ、麻弓」 「うおーっす」 背後から答えた女子に振り返ると、声の主は予想通りだった。 麻弓=タイム。B組のパパラッチその1。 新聞部じゃないがデジカメを片手に特ダネ探しに奔走している。 思った事を結構はっきり言ってくるが、俺的にはその性格は好ましい。 ちなみに、マユラとは結構気があるようで一緒に遊ぶ事もあるようだ。 「で、転校生って?」 「なんだ、知らないの結城くん。結構有名なのに」 「あー、そう言えば昨夜マユラがんな事言ってたな……おまけにアキラにも意味の分からん激励されたし、それ関連なのかも」 「……あながち間違ってはないのよね〜。逆にあの2人と青山くんが接点がないほうがおかしいもの」 「接点? じゃあ転校生ってアキラの知り合いなの?」 「まね〜。で、それで青山くんがどれだけ頭を悩ませているか……それがあちらでございます」 ピッと指差す麻弓。その方向には―― 「………………」 ものすご〜い近寄りがたい雰囲気を放っているアキラが席に座っていた。 「「うわぁ」」 「おかげで私も自分の席に近寄りがたいのですよ……」 不幸にも麻弓はアキラの隣。しかもアキラが結構真ん中な位置にいるせいで円形に人が離れている。 そりゃぁ、殺気放つあいつの隣に好き好んで座り続けていたくないよな。 「私でもあんな殺気出されてたら隣で寝れないわ……」 「いつでもどこでも寝れるカレンがそこまで言うのはよっぽどの事だよな」 何せ現代最強の人間が放つ殺気だし。 「それに……」 「なんだよ、人の顔んな見て。なんかついてるか?」 「そうじゃないけど、一波乱起きそうだなーと」 「なんだそりゃ?」 「まあ、どのみちもうすぐ分かることだし、真実は自分の目で確かめるべきなのですよ。あ、マユラー! ちょっといい? AAAランクに合格したインタビューさせて欲しいんだけど」 「あ、おい!」 麻弓はそれ以上言わず、ひょいと教室に入って行く。 ……なんだってんだ、一体。 首を傾げていると、廊下のほうからざわざわと喧騒が近づいてくる。どうやら転校生を見て来た男子たちが帰ってきたらしい。 時計を見ると、そろそろHRだ。結局麻弓にそれ以上追求できず、俺は自分の席につく事にした。 「よーしお前ら席につけー」 「……なんで紅女史?」 1年時はまだしも2年では紅女史は千早のいるF組の担任のはずじゃないっけ。 「あ〜、伊庭先生は今日、諸事情により少し遅れて来るそうだ。そこで私が代わりにHRを行うことになった。青山、気持ちは分からなくもないがその殺気は抑えろ」 「…………わかりました」 伊庭ちゃん何時までオンしてたんだよ……俺はデッキの調整で昨日はオンしてなかったけど。 あー、もしかしてあのクエかな。あれ時間かかるんだよなぁ。 「今日からこのクラスに、新しい仲間が加わることになったのだが……まぁ、説明の必要はないか」 紅女史の言うとおり、すでに大半が転校生を見に行って、特に男子はかなりそわそわしている。麻弓がたしなめるように、斜め後ろにいた樹に呟いた。 「ちょっと、落ち着きなさいよ」 「なに言ってんのさ。女の子との出会いは、最初のインパクトが大事なんだよ」 「はいはい、勝手にしてください」 どういっても聞く耳持たないと麻弓は悟り、諦めて前を向いた。 「みんなぁー! 準備は良いなぁーーーっ!?」 「おーーーーうっ!!」 血気盛んなことで……仲丸とアシッドもちゃっかり参加してるし。 あ、生きてたんだお前ら。 「はぁ……仕方ないな」 紅女史、本当にご苦労様です。そしてご愁傷様でした。 俺はため息をついた紅女史に同情の念を送り、紅女史は戸口へ向く。 「2人とも、入ってきなさい」 紅女史の言葉と共に戸が開き、男子たちはクラッカーを鳴らし、口笛を吹き、拍手喝さい……だが入ってきたのは、 「あーっはっはっはぁ! なんか面白そうなところじゃねぇか、人間界の学校もよぉ」 樹の期待していた『美少女』ではなく、着物を着た筋骨隆々の男と、 「まったくだ。若くて美しいお嬢さん方がいっぱいで若返ってしまいそうだね」 浅黒い肌の長身痩身、ロン毛の色男だった。 男子は歓喜の涙から悲しみの涙――って中には血涙流している奴もいる――を流し、何人かの女子は見惚れている。 期待はしていなかったが……さすがに予想の斜め上を行ったオチに、俺は思わずわが目を疑った。 もしかして夢? これって。ゴシゴシと目を擦ってみるも、やっぱり現実。 「あれが……噂の転校生?」 どう見ても俺たちと同い年には到底見えないぞ。 「おーい、麻弓ー。あれが、その極上美女だって言うのか?」 「ぶんぶんぶんぶんぶん! 違う違う違う違う!」 ……なるほど、どうやら俺の目が腐っているわけではないらしい。 そんな空気を知る由もせず、筋肉男は不思議そうに固まった男たちを見る。 「なんだ? どうした、お前ら。んな静まり返って、さっきの元気はどこ行った? あぁ?」 凍りついたクラスに、原因が自分たちということに気づいていない筋肉男は不思議そうにクラスを見渡す。そこに色男が嗜めるように言った。 「まぁまぁ、あまり脅しちゃかわいそうじゃないか神ちゃん。彼らもまだ、子供なんだからねぇ。いわゆる、『人見知り』とか言う奴じゃないのかな?」 違います。希望を打ち砕かれて静まったんです。 「それは違うな、フォーベシイ。彼らも半分は大人だ。人見知りは卒業しているものも多い」 そこに、筋肉男でも、色男でもない、別の声が響いた。開け放たれた戸口からまた1人、別の男が入ってくる。 肩にかかる程度の銀髪に、宝石のようなサファイアブルー。2人に勝るとも劣らないまたも美形。 「おう、ルー坊。じゃあ何だってんだ?」 「人見知り、じゃなかったら何なんだい? ルーちゃん」 第3の男に尋ねる2人。銀髪の男は少し肩をすくめ、 「彼らは人見知りじゃない。これほどの美形が来ていて、照れているのさ」 ……どうにも新たに乱入してきた男も、わかっていなかったようで……。あ、紅女史肩震えてる。爆発寸前だな、これ。 ドォンッ! だがそこに、別の爆発音が教室に鳴り響いた。 まるで銃声のような……いや、と言うよりもまんま本物の銃声だった。 その発生源は顔を俯かせたまま、右手にエメラルドグリーンとシルバーで彩られた大型の拳銃を握り締めている。 「ア、アキラ?」 いや、確かにクラスの中で堂々と拳銃その他危険物を携行しているのはアキラくらいしかないとは言え、いきなりぶっ放すのはどうだよ。 そしてその銃口が向けられた先――つまり3人目のイケメンは、音速で放たれた銃弾を人差し指と中指でピッタリ挟んで受け止めてるってどういうこった。 「やれやれ、血の気が多いのは相変わらずか。少しは自制心と言うものを覚えたらどうだ、アキラよ?」 「黙れクソ天使。素直に鉛弾食らってくたばってろ」 「ははは、それは無理な相談だ。電磁加速されていたならともかく通常加速ではこの通り素手で受け止められる」 「まあ、どちらにしてもレールガンだろうと白羽取りできる自信はあるが(キラーンッ☆)」 何この人。マジで何者? 余裕綽々にのたまった男の人に、アキラは小刻みに震え出す。 「そうか、そうか……だったらその発言、証明して見せろ!」 ジャキンッ! 完全にブチギレたアキラは左手にレッドとブラックガンメタルに彩られた大型拳銃を背中から抜き放ち、男の人に向け照準。 間髪言わずぶっ放す……と言うか、機関銃みたいに連射しやがった。 あっという間に銃撃戦が始まり、教室はパニックに陥る。 「ぬわぁー! やめろ青山ー!」 「あいつ怒らせるとかどういう神経してんのあの人はー!?」 怒声、悲鳴、阿鼻叫喚。各々防御魔法を展開したりして身を守ろうとしている中、紅女史は頭を抱えて倒れそうになっていた。 「うわ、紅女史!?」 慌てて駆け寄り、周囲に障壁を展開する。 ちなみにどこの誰とも知らぬ男2人も防御魔法で身を守っていた。 「はっはっは、相変わらず仲が良いなぁルー坊たちは」 「けどアーちゃんのあれはいただけないね。ここは平和の国なんだから武器の携行をしてはいけないよ」 んな暢気に話している場合か! 「だ、大丈夫ですか紅女史!?」 「ああ……だが誤算だった。あの人たちが来るなんて……特にあの人は青山と犬猿の中だと言うのに」 「っていうかあの人が一方的にアキラをからかって挑発しているように見えましたけど……」 「聞いた話ではあの2人の戦闘で大陸の半分が焼け野原だとか沈没したとか……」 なにその戦争。と言うかアキラと互角にやり合える相手がこの世にいるのか。 「数だけではどうにもならんぞアキラよ。弾薬だけ無駄に消費して行くじゃないか」 「黙れ腐れ! 蜂の巣にでもなれ!」 二丁拳銃による乱射に加えて、さらに魔力で生成した飛剣までも導入していく。 ありゃマジで殺す気だ。 だと言うのに男性は涼しげな顔でそれを捌き、かわし、受け止め、跳ね返し、ダメージを一切負ってすらいない。 アキラの強大にして莫大な魔力から繰り出される魔力を帯びた攻撃は、アキラの魔力運用も相まって絶大な威力を持つ。 それを素手で渡り合っているんだからあの人も只者じゃないんだろう。 おかげで教室はあちこちに弾痕が穿たれ、飛剣が突き刺さり、見る見るボロボロに成り果てて行く。 「やれやれ、変わらん奴だ。それではまだ私に届く事はないな」 「なにを!?」 「未熟、と言うことだ。ほれ――」 次の瞬間、男性は目にも止まらぬ速さでアキラとの距離を縮め、合気道のように右掌底を放ち、アキラの顎を打ち抜く。 一瞬の出来事にアキラは反応する事が出来ず、クリーンヒットを受けて吹き飛ばされた。 派手な音を立て壁に激突し、そのままずり落ちる。 さっきまで騒がしかった喧騒は、その一瞬の出来事で静まり返ってしまった。 「あ、あのアキラが一撃……?」 ありえない、現代最強と言われるアキラがたったの一撃でKOされるなんて。 目の前の現実を受け止める事が出来ず、俺たちは揃って閉口してしまう。 その沈黙を破ったのは、アキラが敵意を向けていた男性だった。 「いや、知り合いが失礼をした。あいつに代わって謝ろう。だが奴もまだ幼く、精神的にも未熟だ。こういったトラブルを起こしてしまう事もあるだろうが、あまり責めないでやってくれ。あれで結構デリケートなのだ。ここは私の顔に免じて許してやって欲しい」 さっきとは打って変わって慇懃な態度で皆に謝罪する男性に、それまでのギャップがひどくて戸惑う。 「おお、これはひどい有様だな。まったく、時と場合を考えて欲しい物だ。案ずる心配はない、私が責任を持って修復しよう」 そう言って男性はパチンと指を鳴らし、あっという間に使い物にならなくなった教室が新品のように元通りに戻る。 す、すげぇ……普通にやっても破損を修復するのが精々なのに、こんな綺麗に戻すなんて。 「他にはケガをした者はいないか? ……ふむ、大丈夫なようだな」 いや、確かに巻き添え食った俺たちはケガしてないけど、アンタがぶっ飛ばしたアキラは大丈夫じゃないだろう。 「マスター! ご無事ですか!? ルシファー、貴方!」 「騎士王よ、なぜ私を責める?。むしろ私はこの場を収めた。感謝こそすれ、責められるいわれはないではないか」 「しかしアキラを……!」 「ああ、そのことか。問題ないだろう、この程度でくたばるほどヤワじゃない」 しれっと答える男性。 対してセイバーはわなわなと震えて、今にも斬りかかりそうな勢いだ。 「まあまあ、2人ともその辺で落ち着こうじゃないか。これ以上学校に迷惑は掛けられないだろう?」 「ふむ。フォーベシイの言う通りだな。そう言うことだ騎士王。この場は剣を収めようではないか」 「くっ……学園でなければエクスカリバーを使ったのに……!」 「やれやれ……」 呆れたように肩を竦める男性。 もうあれだ、次元が違いすぎて当事者除いてついていけないって感じ。 「それよりもだ、まだHRの途中だったな」 「おぉっとそうだ。で、例のはどこの誰だ?」 不意に周りを見回す2人の男性。 例の? 誰? 何の事だ? 「ふむ、私も聞き伝だからな。ダメージは大して無かっただろう? そろそろ狸寝入りから起きたらどうだ?」 「……いつか絶対殺す」 そう言ってアキラは何事も無かったかのように身体を起こした。 結構派手に吹っ飛んだように見えたけど、アレで大した怪我ないのかよ。 「ああ、アーちゃんちょうど良かった。例の彼はどこにいるのかな?」 先に入ってきた男たちは気にせず尋ねる。それに対してアキラは肩を震わせながら、黙ってなぜか俺を指差した。 え、俺? ぽかんとなる俺をよそに、2人はすたすたと俺のところまでやってくる。 「ほほう、なかなかの面構えじゃねーか」 顎に手を当てながら、筋肉男は値踏みするように俺を見る。 「やあ裕ちゃん。久しぶりだねぇ」 「えっと……この間はどうも」 こっちの色白の男性は昨日樹とナンパしていた人だよな。まさかこんな形で再会するとは思わなかった。 「裕ちゃん、キミは実に誠実な男性であるようだ。やっぱり男は、誠実でなければいけないからね。一途に1人の女性を思い続けることが出来る誠実さ。これが大事だ」 その長い手が俺の手を掴み、強引に握手をさせられる。見かけからは想像できないほど力強かった。 「ネリネちゃんのこと、よろしく頼んだよ」 「おいおいおいおい、抜け駆けはなしだぜ、まー坊」 そう言って筋肉男は強引に色男を俺から引き剥がす。 「それに、それはちっとばかし違うだろ。漢はやっぱり力よ力。いざというときに女を守る、その力こそがかっこよさだぜ」 あんたは見たまんまで、何の変化球もないストレートっすね……速度は245km/hくらいか。 「しっかり鍛えているみたいだしな。これならシアのことを任せられそうだぜ。よろしく頼んだぜ裕也殿よう」 「は、はぁ?」 いや、あんたらなに言ってるんですか。わけがわからず聞こうとしたら、筋肉男の顔がずいっと近づいてくる。なぜか納得いかない様な表情で。 「おいおい、シャキっとしねぇか! シアを押し倒すくらいの勢いがなきゃ――」 そのとき、ぶうん、と風を切る音が、まるで水面を伝わる波紋のように教室中に伝わった。 ズビシッ! と、まるで椅子で殴ったかのような音を立て、筋肉男の顔が黒板に叩きつけられる。 「お父さん!」 尋常ではない一撃の音。会心の一撃、クリティカルヒット。ザコなら即死の一撃。そして、その音を響かせるのにふさわしい衝撃が、そこには伴われていた。 目の前の筋肉男の頭が、大きく横へスライドする。まるで椅子で人間の頭を殴ったかのように。 「シア、さすがに椅子はやりすぎだと教えただろうが……」 「普段血の気が多いから、こうして抜くくらいがちょうど良いんです!」 その筋肉男の後ろから姿を見せる、神族らしき少女が1人。その手に持っているのはパイプ椅子。……本当に椅子で殴ったのか。 「お父様もやりすぎです。裕也さまが困ってらっしゃるじゃないですか!」 そしてもう1人、今度はイケメン男の後ろから現れる美少女。こっちは魔族のようだ。 「アーくんも、ちょっと落ち着いてよ! ルシファーさんも挑発しないで! 私たち出るに出れなかったんだから!」 「……くっ」 神族の子に言われ、アキラは忌々しい目でさっき殺し合いを繰り広げていた相手を睨むと、しぶしぶと引き下がった。 「本当に2人とも仲が悪いんだから……」 どうにもアキラは、彼女たちと知り合いらしい。えーっと……何者? そんなわけでいろいろとハプニングが遇ったものの、転校生の紹介に。 「リシアンサスです。神界からやってきました。ちょっと長い名前なので、シアって呼んでください♪」 確かあの子、スーパーであった子だよな? で、もう1人が…… 「あの、ネリネと申します。魔界からやって参りました。よろしければリンと呼んでください」 そうそう、あの公園であった子だ。で、残りの3人は…… 「ユーストマだ。シアの父親やってるんで、よろしくな。神王なんてのもやっているが……こいつはついでに覚えておいてくれ」 「私はフォーベシイ。ネリネちゃんの父親であり、魔王でもある。ぜひ、見知っておいてくれたまえ」 「我が名はルシファー。神界と魔界の……人間界で言えば、外交官などと言うものをやっている。堕天王などと呼ばれている事もあるが、これはついでで結構だ」 「あなたたちは結構ですっ」 「お前たちは別に要らんっ!」 こめかみに青筋を立てた紅女史とアキラが見事にシンクロして3人に言い放った。けど3人はまったく聞いてない。 「あの……なっちゃん? 今、とてもじゃないけど信じられない言葉を聞いた気がするんだけど……神王と魔王、それに堕天王って……」 マユラがどこか、遠慮がちに尋ねる。紅女史はその質問に、やっぱり来たか、みたいにため息をついた。 「えー、その事についてなんだが……アキラ、代わりに説明してくれ」 「……この時のためにわざわざ呼び出されたんだから、仕方ないか」 アキラも面倒くさそうにため息を吐き、席を立って紅女史の代わりに教卓に立つ。 「えー……非常に残念…じゃない。非常に嘆かわし……でもない。非常に信じられないことだが、この3人はそれぞれ魔界と、神界を統治する王と、その2つの世界の外交・その他を受け持つ、外交官だとかそんな立場にある人たちだ。で、この転校生2人は、その神王と魔王の娘……言うなれば、プリンセスなんだが……2人はあくまでも一クラスメートとしての交流を望んでいる。いかがわしいまねをしたら、俺が容赦なく、歴史上から抹消するから覚えておけ」 「ちなみに私は一時期、アキラと肉体を共有していた事がある」 「お前が俺に憑いていたんだろう悪霊! やっぱあの時消しておけばよかった!」 ルシファーと名乗った男に即座に突っ込むアキラ。って言うか憑いてたって事は…… 「おいアキラ、その場合、肉体はないはずだろ? なのになんで……」 「それは……詳しくは言えない。俺に関わる事だからな。まぁ、何の因果かこいつは再び肉体を取り戻し、神界、魔界へ行って今の立場に収まったわけだが……それはどうでも良いか。紅女史、良いんですね? アレに任せて」 アレって今俺の事見て言ったよな? 「仕方がない。お前も聞いているとおり、彼女たちの要望だ。でだ、結城」 ふぁ〜っとあくびをしていた所に、紅女史に声をかけられる。何かと残りを噛み殺してそっちへ振り向くと、 「この2人の面倒、お前に任せる」 その言葉に、クラス全員の視線が一気に俺へと集中した。 「…………は? い、今なんて……」 猛烈に嫌な予感が蘇り、俺はぶわっと汗を噴出す。 「だから、彼女たちの面倒を、お前に、全て、丸ごと、ありとあらゆる事すべてを、任せるといったんだ」 「ちょ、ちょっと待ってください! 何で俺が!?」 いきなり俺に指名され、俺は困惑しながら立ち上がった。そんな俺に、「それは私から説明しよう」と魔王フォーベシイがシアとネリネの肩に手を置いて答える。 「つまりだ、裕ちゃんはネリネちゃんシアちゃんの婚約者候補に選ばれたわけなのだよ」 「はぁ!?」 「えぇっ!?」 「なんだとぉぉっ!??」 魔王が発した突然の爆弾発言に、奇異の視線が瞬時に殺意の視線へと切り替わる。けど神王ユーストマはかまわず言葉を続けた。 「はっきり言っちまえば、次期神界と魔界の王様候補ってわけさ。うちのシアを選べば、神の力使い放題だ」 「もちろんネリネちゃんのお婿さんになれば、魔界の権力使い放題だよ?」 俺は慌ててシアとネリネの2人を見る。2人は俺の視線に気づき、シアは嬉しそうに手を振り、ネリネは恥ずかしそうにちょこっと一礼した。 「……裕也…」 「……何だ樹。とりあえずお前の用件は後にして、アキラ! お前もこれに絡んでるんだから、責任とってくれるよな!?」 「朝に助力するといったばかりだからな……」 慌ててアキラに協力を要請すると、アキラは溜め息をつきながら徐に銃を抜き、天井に3発発砲。って撃つなよ! 「そこまでだお前ら。裕也に対して文句があると言うのなら、まずは俺が聞こう。実力行使も上等だ。束になって相手してやる」 「アキラ! 貴様いつから権力の側についた!」 「煩い黙れ。俺はあくまでもビジネスライクだ。口上とは言え約束したならそれを果たさなければ信用に関わる」 「ええい、って言うかセイバーちゃんがいるのに他にも女をはべらせていたお前も許すまじ!」 「結城より先にまずはお前に天誅を下してやる!」 「俺たちは認めない! 絶対にぃぃぃっ!!!!!」 「オオォッ!!!!!!」 即座に教室が臨戦態勢に突入する。って言うか俺も完全に狙われているよな、これ。 「ちょ、カエちゃん!? しっかり! 気を確かに!」 「座ったまま気絶しちゃってる……」 「気持ちは分かるのですよ……」 おおう、なんか被害があっちこっちに広がってる!? 「総員対魔法戦闘用意! 全火力を前方へ集中しろ!」 「躊躇うな! 正義は我らにあり!」 「奴を抹殺し、彼女たちを魔の手から救い出すのだぁぁ!!」 「オォォォォッ!!!」 「EDF! EDF! EFD! EDF!!!!」 ええい、魔の手はどっちだ! 「カインヘルプ!」 「なんだってお前は妙なトラブルを引っ張って来るんだよ!」 「俺に言うな! 俺だって今回はわかってないんだよ!」 ぎゃーぎゃー言いあいながらカインと合流。 ヒートアップし続ける男士たちの中で、アキラは冷めた目を向け溜め息をついた。 「ここでは狭いな。外で待っているぞ。好きなだけ援軍なりなんなり呼べばいい」 そう言いつつアキラは俺たちにアイコンタクトを取る。 〈バリアジャケット装着準備〉 そしてすぐに念話が飛ばされ、その意図を掴んだ。 「と言う事でシア、リン。少し騒がしい連中の頭を冷やしてくる。いつもの事だから気にしないでくれ」 「う、うん……?」 「はあ……」 ぽかんとする2人のプリンセスに言い残し、アキラはその場から跡形も無く姿を消した。 同時に俺の視界もいきなりブレ、次の瞬間には校庭に降り立っていた。 「逃げたぞー!」 「追えー!」 「近隣の親衛隊、ならびに同志に連絡しろ!! 奴らを倒し、彼女たちを救い出すのだー!」 「おおおぉぉぉぉっ!!!!!!!!」 どたどた音を立てて追いかけ、教室を出て行く男子たち。 こりゃ1限と2限は潰れたな……あ、1限英語だったっけ。ラッキー。 「お前ら……はぁっ、私はF組のHRにもいかないといけないから、もうこれで終わりだ……」 紅女史、ご苦労様です。あと色々ごめんなさい。 「いぃぃぃたぁぁぞぉぉぉぉっ!!」 「うおおおおおおおおおっ!!!!」 地鳴りのような咆哮と共にあちこちから生徒が飛び出してくる。 多分B組を筆頭にKKKやMMMが混じった混成部隊だろう。 その数は100をくだらないはず。正確な人数は日夜増員しているから計測不可能だとか。 〈ディバインバスター・フルパワー〉 だがその大軍は突如放たれた広域砲撃魔法によって一瞬でがっつり減らされた。 放たれた方角を辿ると、その先には身の丈を越えるほどの大きさを持つ薙刀(グレイヴ)を構えるアキラの姿。 「フンッ。バカの1つ覚えみたいに纏めて来るからこうなる」 「つかあれだけの数をワンショット・ワンキルで落とすって……」 一応俺とカインもバリアジャケットを装着していたが、手を貸す必要はないらしい。 〈敵性反応あり。増援のようです。数は不明〉 アキラの構えたデバイスが淡々と報告してくる。 〈いやー、これ無双系のゲームだったら爽快でしょうねー〉 〈この様子では我々が手を貸す必要も無さそうです〉 暢気に喋るフラガラッハと、淡々と事実のみを報告するカインのデバイスは対照的だろう。 って言うか俺のデバイスが特殊すぎるのか。 〈ディバインバスター・フルパワー〉 アキラの第2射。またも広域攻撃に匹敵する範囲と威力を持つ砲撃を放つ。 群がっていた軍勢は銀色の魔力の奔流に飲まれ、収束すると全員KOしていた。 さすがにもう終わっただろう……そう思っていたら、意外な報告が届く。 〈まだ残っています。数は2、これは……〉 「仲丸と緑葉か」 そう、2度も大出力広域砲撃魔法が放たれたと言うのに、敵はまだ2人も残っていた。 「ふ、ふふ……甘く見ないでくれよアキラ。さすがの俺様も今のは死ぬかと思ったけど」 「防御に全魔力を集中すれば、この程度……」 けど2人とも消耗して立っているのがやっとって感じだった。 おい、無理しないでそのまま倒れろよ。 「男には、死んでもやり遂げなきゃいけないときもある!」 「今がその時なのか……?」 なんか誇らしげに言う樹を見ていたら残念な気持ちになるのはなぜだろう。 「……はぁ」 心底面倒くさそうなアキラの溜め息。 〈サイズフォーム〉 次いで手にしたデバイスが心中を汲んで、グレイヴから巨大な大鎌に変形する。 「少し……頭冷やそうか」 〈ソニックスラッシュ&ソニックムーブ〉 刹那、視界からアキラの姿が消えた。 次いで衝撃が響き、仲丸と樹は空を舞う。 「Too easy(楽勝)」 結局、アキラ無双で騒動は鎮圧されたのだった。 |
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2012-04-29 Sun 22:31
アキラ「と、言う事でなるかみを改良したからさっそく実戦テストをしてみたいと思う」
裕也「簡単には負けないからな。逆に銀河をブチ抜いて星屑にしてやる! 吼えろシュテルネン・ブリッツー!」 マユラ「ってなわけで、解説は私、マユラ・ラバッツと」 カイン「カイン・ケプフォードで送らせて貰う」 マユラ「2人がマリガンしている間にさくっと2人のデッキを紹介するよ。アキラくんは新弾「極限突破」に登場した新クラン「なるかみ」。今はカードプールの関係で過激なまでにパワー重視になってるよ」 カイン「対して裕也のデッキはアシュラ・カイザーとブラウクリューガーの混合型ノヴァグラップラー。通称「アシュテルン」だ。それぞれのキーカードは対照的な効果を持つが、ブラウはライド事故軽減目的で少数投入されている」 マユラ「で、今回勝つのはどっちか!? マリガンと先攻後攻も済ませ、いよいよファイト開始!」 カイン「CM明けてすぐ始まるぞ」 |
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2012-04-21 Sat 03:32
裕也「と言うわけで緊急開催! 「結城裕也新武器開発会議」ー!」
アキラ「……なんだこれ」 シェリア「またよく分からない企画を……」 カイン「いつもの事と言えば、いつもの事なんだがな」 裕也「はい、と言うわけで始まりました「結城裕也新武器開発計画会議」! 司会進行は俺こと結城裕也でお送り「帰るか」ちょっと待ってー! お願いだから俺の悩みを一緒に解決してー!」 アキラ「悩み? お前が? 年がら年中行き当たりばったりで過ごしているお前に悩みなんてあるのか。ああ、金銭の事か。貸さないぞ」 裕也「違うわ! 俺だって悩みはたくさん抱えてるわ!」 カイン「……まあ、そのタイトルからすると武器? って事なんだろうけど、なんなんだ、一体」 シェリア「裕也にはフラガラッハがあるじゃない。それにウェポンも」 フラ《そうなんですけどねー。私もマスターも最近飽きてきたから新ジャンルを取りこんでみようって事でこの企画を出したんですよー》 シェリア「いや、飽きないでよ……」 裕也「それにウェポンもなんだかんだで期間限定だし。っていう事で新しい武器を使ってみようかなーと言う事になったわけなんだ」 アキラ「……がんばれよ」(席立とうとw 裕也「ってこら! 抜けるな! お前が一番多くの武器使ってるんだから一番参考になるんだよ!」 アキラ「俺に何のメリットもないだろう。カインやその他大勢は好意で相談に乗ってくれるだろうが」 裕也「くっ……!(まずい、貴重な意見者が……!) なら! お前の最近悩みであるヤンデレヒロインの扱い方について俺が教えてうぉーっ!?」(幻影剣が殺到してきて慌ててシールド張り アキラ「……串刺しになりたいのかお前」(生成した幻影剣順次待機させて 裕也「えっと……ゴメンナサイ」 アキラ「それと勘違いするな、伊吹は別にヤンデレじゃない。一時的に病むけど基本ツンデレだ」 裕也「さようでしたか……えっと、その物騒な剣を収めてもらってもよろしいでしょうか?」 アキラ「フン……」(幻影剣を解除して フラ《まー、あっちが騒いでる間にこっちは進めちゃいましょうか。実の所、マスターって元主人公(笑)の物も統合すると実際の所1種類しか武器使ってないんですよね》 カイン「1種類……ガンブレードか?」 フラ《そうですそうです。色々形態は異なりますけど、基本的に剣の機能と銃の機能が融合したガンブレードしか使ってないんですよね、ほとんど。ウェポンは一時的な物だから除外して》 シェリア「そう言えばフラガラッハにもガンブレードっぽい機能があるわね」 フラ《私の場合はカートリッジを手動でロードするための物ですけどね。他にも連結刃や弓も使えますが、基本形態はやっぱりガンブレードです。どんだけガンブレードプッシュするんですかねー》 カイン「そう言われると裕也がガンブレード以外の武器使っているところは殆ど見た事がないな……」 シェリア「あまりにも自然すぎて逆に気づかなかったわ……」 フラ《と言う事で、マスターも私もそれに気づいたら倦怠期に入っちゃって、どうするって話になったら「じゃあ別のジャンルの武器使ってみるかー」と言う流れになったんですよー。いやー、恐ろしい話ですねー》 カイン「いや、入るなよ、倦怠期。人間じゃあるまいし」 シェリア「まあ、事情は分かったけど……ねえ」 |
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2012-04-15 Sun 13:23
刹那「…………」(はぁ、と無意識の内に溜め息をついて
このか「せっちゃん? どうしたん、溜め息ついて」(ひょいと刹那の顔を覗き込み 刹那「お、お嬢様っ!? へぶっ!」(驚いて仰け反った弾みで椅子ごと後ろに倒れて 楓「せ、刹那さん!?」(前に座っていた刹那が倒れてきてぎょっとして このか「だ、だいじょーぶせっちゃん!?」 刹那「あたた……は、はい。すみません、ボーっとしていて」(よろよろと後頭部押さえて起き上がり 楓「どうかしたんですか? ボーっとしてるなんて珍しいですけど」 刹那「ええ、まあ……ちょっと」 このか「……もしかしてアーくんのことで悩んどったん?」 刹那「……はい」 楓「青山くん、ですか?」 刹那「ええ……。最近のアキラの様子で、少し」 このか&楓「「ああ……」」(ちら、とアキラの居るほうを見やって 裕也「ブレイジングフレアのスキル発動! ソウルブラストしてアポカリプス・バットを退却!」 アキラ「チッ!」 裕也「さらにキンナラをコール! カウンターブラスト! 後列全部退却だ!」 アキラ「ッ……!」 裕也「これで決める! ラオピアのブースト! ブレイジングフレアでF・B・Dにアタック! パワーは29000だ!」 アキラ「…………! アビス・ヒーラー、グリム・リーパーでガード!」 裕也「トリガー1枚で、通るッ! ツインドライブ! ファーストチェック、セカンド……チェック! 無いだとぉ!?」 アキラ「やはりカードの声が教えた通りになったか……」 このか「アーくん、ヴァンガードにのめり込んでるもんなぁ」 楓「裕也くんも「アイツにはやっぱ負けられない!」って言って前よりものめり込んでいて……」 刹那「最近のアキラはいつもカードばかりやっていて、それで……」(ちら、とセイバーのほうを見て セイバー「騎士王 アルフレッドでアタックします!」 舞華「ドンと来なさい!」 セイバー「ドライブチェック!」 楓「……セイバーさんも策に嵌って始めちゃいましたからね」(苦笑いして 刹那「青山家では毎日のように「スタンドアップ! ヴァンガード!」の声が響いてます……」 このか「でもアーくんも楽しそうやろ? だからせっちゃんもあまり強く言えないんや?」 刹那「ええ……カードファイトしている時のアキラは本当に活き活きとしているので」 楓「活き活き……ですか」 アキラ「カードの声が教えてくれた。このターンで終わると。ファイナルターンッ! P・B・Oでアタック! ペルソナブラスト! パワー+10000、クリティカル+1!」 裕也「これを喰らうわけには……ワイバーンガード バリィで完全防御!」 アキラ「ツインドライブ! ファーストチェック、セカンドチェック……ゲット。クリティカルトリガー。効果は全てマスカレードに!」 裕也「うげぇ!?」 アキラ「カロンのブースト。マスカレードでヴァンガードにアタック!」 裕也「うぼぁー!」 楓「……まあ楽しそうなのは確かですけど」 このか「あれでもアーくん楽しんでるんよ。ちょっと闇落ちっぽい雰囲気漂わせてるけど」 裕也「ぬあー! なぜあそこでトリガー来なかったー!」 アキラ「お前は詰が甘い。あそこでさらにバーサーク・ドラゴンあたりで退却させられていたら危うかった。出し惜しみしないほうがよかったな」 裕也「うぐぅぅぅ……」 アキラ「とは言え、やはり俺のシャドウパラディンに勝てる奴はマユラくらいしか……なんだお前たち」(じーっと自分の事を見ている刹那たちの視線に気づき 刹那「いえ、その……楽しそうですね、アキラ」 アキラ「楽しい? ああ、楽しいな。ヴァンガードとめぐり合えたのは俺にとって文字通り運命だった。シンプルなルールながらその仕組みは奥深く(略)」 裕也「あーはいはい。で、楓たちはどうしたんだよ?」 楓「いえ、青山くんの事でちょっと話してて」 裕也「アキラの?」 このか「あれや、最近アーくん私たちに構ってくれなくて、せっちゃん寂しいんやって」 刹那「こ、このちゃ!? いえ、お嬢様!? 別に私はそんなつもりは無くて!」 このか「違うん?」 刹那「う、うぅ……」 裕也「あー、納得。こいつヴァンガード知ってから人変わったようにずっとカードにのめりこんでるし。って言うか絶対PSYクオリア持ってるし」 楓「裕也くんは変わってませんよね」 裕也「変わらん変わらん。ある意味楽しいって事知って変わったといえるけど」 シェリア「そのせいで毎月どれだけのお金を遊びに突っ込んでいるのかしらね」 裕也「いやー、昨日はプリムラにクレーンの景品とってくれってせがまれて2万突っ込んで……って」(恐る恐る振り返り シェリア「2万もクレーンに突っ込んだの……」 裕也「いや嘘。あれはおもちゃ屋で買った8千円の品物。さすがにクレーンに2万も突っ込むバカな奴なんていないだろ」 シェリア「いるわ。私の目の前に」 裕也「落ち着こうシェリアさん! 誤解だ! 話し合おう! 暴力は何も生まない! 憎しみの連鎖を生むだけだ!」 シェリア「問答、無用!」(一閃→水蛇刀→神雷招→無限刃→ライトニングブラスターのコンボ決めて 裕也「…………」(HP:21 刹那「えっと……いいんですか?」 楓「まあ、いつもの事ですから……」(苦笑いしながら シェリア「まあ、なんだかんだでアキラも裕也に通じる部分はあるし……こうなっても不思議は無かったんじゃない? これよりまともか、性質が悪いのかは分からないけど」 裕也「シェリ、ア……あんま、り……だ」 シェリア「うるさい」 裕也「すいませんでした」 このか「シェリアさんは裕也くんの手綱握っとるもんなぁ。ウチらだと……まーちゃんはノるし」 刹那「意外とアキラのコントロールが出来る人って居ないですね……」 シェリア「そう? けどアキラは自立しているから良いと思うけど。裕也は毎日毎日遊び呆けて……」 楓「でも、いつもリムちゃんやソフィちゃんと遊んでくれる裕也くんはいいと思ってるんですよね?」 シェリア「そ、それは……まあ、将来は良い父親に……なると思うけど」(ゴニョゴニョとなにか言って このか「でも……最近のアーくんはちょっと問題やなぁ。聞くところによると六課でも周り巻き込んでヴァンガードしてるって聞くし。何でも、「1日1ヴァンガードファイト」ってルール敷いたとか」 シェリア「いくら自分が実質トップだからって職権乱用じゃない……」 刹那「どうにかならないんでしょうか……」 舞華「ならいっその事2人もヴァンガード始めてみれば?」 刹那「ま、舞華? いつから居たんですか?」 舞華「今さっき。全部は聞いて無いけど大体分かった」 楓「あのぅ……なんで青山くんを元に戻すのにヴァンガードが関係してくるんですか?」 舞華「詰まるところ、刹那は最近アキラと共通している事を持っていなくて構ってくれないから寂しがっている。ならヴァンガード始めちゃえば良いのよ。アキラも喜んで教えてくれるわよ?」 刹那「そ、そうでしょうか……」 このか「こう言うときは本人に聞いてみるのが一番やな。なあなあ、アーくんアーくん」 アキラ「でありつまり……なんだ? このか」 このか「あんな、ウチとせっちゃんがヴァンガード始めてくれたら、アーくんは嬉しい?」 アキラ「……2人が? ヴァンガードを?」 刹那「…………」(こくん、と頷いて アキラ「……本当か?」 このか「え、えっと……やってみようかなぁとは考えとるんやけど」 アキラ「…………」(無言で2人を抱きしめて 刹那「え、ちょ、アアアアアキラ!?///」 アキラ「そうか……そうか、そうなのか。ついに2人もヴァンガードの魅力に気づいてくれたのか」 このか「魅力って言うか……アーくんが楽しそうにやってるの見てウチらもやってみようかなぁと思て」 アキラ「ああ、ああ。ああ! 楽しいさ! ヴァンガード! これほどまでに楽しいゲームは無い!」 刹那「は、はぁ……」 アキラ「やり方なら俺に任せろ! 手取り足取り綿密にかつ分かりやすく全て教えてやる! デッキの構築もな!」 刹那「あ、ありがとう……ございます」 このか「(ほんまに嬉しそうやな、アーくん)」 刹那「(え、ええ……そうですね)」 アキラ「最初は俺のデッキを貸してやろう。それでルールを覚えていけば良い。で、肝心のデッキだが……2人にピッタリのクランがもうじき出るんだ」 このか「ウチらに?」 舞華「あ、それってもしかして極限突破に出る新クラン? 確か……」 アキラ「【エンジェルフェザー】と【なるかみ】だ。特になるかみは俺も組もうと思っていた。だから刹那、一緒にデッキを組もう」 刹那「い、いいんですか?」 アキラ「断る理由なんて無いだろう?」 このか「ええなーせっちゃん。アーくんはその「えんじぇるふぇざー」ってゆーのは組まないん?」 舞華「あ、それなら私が組もうかなって考えてたのよね。なんならこのか、一緒に組む?」 アキラ「確かに組まないが……デッキ構築の助言はしよう」 このか「ほんまに? おおきにアーくん!」 刹那「あ、ありがとう……ございます」 シェリア「なんだか舞華に上手く丸め込まれた感があるけど……」 楓「まあ、本人たちが幸せそうですし……」 裕也「2人とも……今始めるなら俺が根絶丁寧に教えて……」 シェリア「ああ、裕也。裕也の来月のお小遣い20%カットよ」 裕也「いやああああ!」 |






