9年も見ていなければ、駅前もだいぶ変わっている。別の街……ってわけでもないが、1年近くいた街と重ねるとだいぶ食い違う。
「さて、どこにいるんだか……」
「あ、いたいた! アーオー!」
「やっぱ誰か聞いておけばよかったな……意外と人多いから誰か見当もつかないよな」
「ちょっと! なに無視してんのよ!」
「………………さて、どこにいるか探すとするか」
「人の話しを聞けー!」
ヒュンッ、と空気を切り裂き何かが迫る。それをひょいと首を傾げて避けた。
「わきゃぁ!?」
ずてーんと転ぶ誰か。とりあえず助けない。
「あたたた……な、なにすんのよ! 危ないじゃない!」
「何だってコイツを呼ぶんだよ……」
ようやく悩みの種から解放されたと思ったら、たった1年でまた(正確には2年)再開しちまった。はぁっと新年早々重たいため息をつく。
「もう少し大人になれよハルヒ」
「アオこそ。相変わらずむっつりみたいね」
互いに微苦笑を浮かべ、相手を見た。涼宮ハルヒ……9年経って外見は変わったが中身は変わらない。
「そもそも俺は9年前……いや、今じゃもう10年前か。まあどっちにしても、過去の俺だ。お前たちと出会って1年後の時間から来たんだから、それほど変わらなくて当たり前だろう?」
「あ……そう、だったわね」
とたんにハルヒはバツが悪い顔になる。気にしていたことを口にしたことに対して悪かったとでも思っているのか。
「気にするな。お前に気にされても疲れるだけだから」
「な、なによそれー!?」
怒って襲い掛かってくるハルヒをひらひらと避ける。なんと言うか、こいつとのやり取りは昔と同じと感じた。
「おいアキラ、そこまでにしてくれ。新年早々ハルヒの超絶不思議能力のとばっちりを食らいたくない」
「ああ、いたのか、キョン」
「いたんだよ。だから煽らないでくれ、俺が苦労するから」
「相変わらず…みたいだな」
「ストッパーが1人減って大変だった…この10年間」
「うっ……」
いや、よくよく考えれば、俺があの場にいたのが寄り道だったんだ。本編ってTLOCMからだったんだぞ? そのプレリュードが青憂だったんだからな? …はて、果たして自分は何をいっているんだろうか。ああ、読者用の説明か。
「よぉ、揃ってるみたいだな」
「和麻……いや、予想できたけどな」
予想していた人物その3、八神和麻。ついでにマスコットの煉。
「ちょ、マスコットって何ですかマスコットって!」
「地の文に突っ込むなよ」
「相変わらず見たいだな、お前は」
「お前もな。性格だけは相変わらず、か?」
「それを言ったらこの時間のお前だってそうだろ。20代後半だぜ?」
「今の俺はまだ15だ。いや、もうすぐ16だな」
何気なく言ったその一言に、和麻の表情に影が差す。
「別に気にしていないさ。お前が悪いわけじゃない」
「ああ、そう…か?」
和麻なりに気にしているのだろう。俺のタイムリミットについて。なんだかんだでお互い似たような境遇に遭ったんだから。
「せいぜい足掻いてやるよ。約束…したからな」
「ほぉ……お前の口からそんな言葉が出るとは思わなかった」
「変か?」
「いや、いい顔するようになった」
「…そうか」
まあなんだかんだで色々とあったからな……色々と考え方が変わるのも当たり前か。
「――にしても、綾乃は一緒じゃないのか? てっきり一緒だと思ってたのに」
「あ、姉さまは色々と準備があって、遅れて来るそうなんです」
「なんだかんだであいつも神凪の当主だからな。挨拶とかあるんだよ」
和麻と煉の話に、意外そうな顔になった。
「へぇ、あいつ神凪の当主になってたのか? よくまああの程度の実力で当主になれた「だぁれがあの程度の実力ですってぇぇ!?」――おっと」
唐突に怒号が響き、続いて迫った炎を避ける。
「誰がその程度よ!? 誰が!?」
「ああ、綾乃。いたのか」
振り返れば自分が知っているよりも幾分成長した神凪綾乃が肩を怒らせて立っていた。無論、手には炎雷覇持って。
「物騒な奴だな。街中でそんな刃物振り回すなんて」
「お前だって人の事いえないだろ」
すかさずユウヤが突っ込みを入れる。確かに銃刀法違反の銃と刀(剣)どっちも持っているけどな。けど出していない。
「アキラ、あんま綾乃を侮らないほうがいいぜ? これでもいっぱしの神炎使いだ」
「ああ、神炎使えるようになったのか。へー、そりゃすごい」
「ちっとも驚いているように見えないんだけど…?」
「今ので戦力データの45%修正終わったし。無難に斬撃にすりゃよかったな」
「こ、の……」
プルプルと震える綾乃。ふむ、確かに強くなっているだろうが、まだまだ甘いか。
「まあ、確かに強くなってるな。さすがに歳食ってるだけはある」
「っ!! 歳のことを――」
ボワンと炎雷覇を紅色の炎が包み込む。
「言うなぁぁぁぁ!!!」
その日、駅前上空で原因不明の特大火柱が上がった。
「はい、残念無念また来世っと」
「ぐっ……こ、の」
綾乃の震えは止まらない。放たれた神炎(和麻いわく紅炎)は軽く空間転移して上空30mほどの位置で強制炸裂させた。
「ま、時空術と炎術じゃ相性悪いからな」
苦笑しながら和麻が言う。
「新年早々神炎なんか使うなよ。使うにしても黄金で打ち上げ花火とかに使え」
「こ、の……相変わらず嫌味な奴」
「お前こそもう少し自重したらどうだ? 2(ピー)歳なんだから」
おっと、世界の修正がかかったか。
「だから! 歳の事を言うなぁぁぁ!」
再び紅炎が放たれるが、ひょいと回避。
「おいアキラ、からかうのも程々にしてくれ。いくら綾乃が弱いって言ってもやりすぎだ」
「ちょ、和麻! ぜんぜんフォローになってないじゃない!」
「フォローする気なんか無いんだろ? なあ?」
「せーかい」
「ア・ン・タ・た・ち〜〜〜〜〜!!!」
どーんぼかーんと駅前で無数の爆発が起こる。なんだなんだと通行人たちの人だかりは出来ないが、通るたびに視線が向けられる。
「あわ、あわわわ……」
「姉様…兄様……はぁ」
「新年早々暴れるなよ……」
「時間が食い違ってのあの2人か……」
「あたた……新年早々胃痛が」
はぁっと重いため息をつくものもいれば、あわあわと慌てるもの心労で胃が痛くなるものまたそれぞれの反応が周りであった。
「むさ苦しい……男ばっかりでむさ苦しいぞ」
「主たちは何か準備があるらしいから仕方がないだろう……ん? 今誰が言った? ユウヤか?」
「は? いや、なにも言ってないぜ?」
「っていうか今の声って……俺にはものすごい聞き覚えがあるんだが」
「ほうほう、はやてちゃんたちまだ準備中か……いや、それならそれで待つかいがあるか」
ふむふむと神妙に頷く誰か。辺りに首を巡らせると、顎に手を当てふむふむと頷いている男がいた。
「誰ですかあなた」
「あ、啓太さん、お久しぶりです」
「おう、久しぶりだなぁ煉」
ニカッと新たに現れた男、川平啓太は笑って輪に入る。
「なんていうか久しぶりだね、こうやってみんな集まるの」
「あ、薫さんも。お久しぶりです」
「うん。久しぶり、煉くん」
微笑を浮かべ、啓太と共にやってきた男、川平薫も加わる。
「なんつーか、アキラがくれば自然と集まるんだよなぁ、俺たち」
「そうですね……こうやって集まるのは久しぶりなのに、ぜんぜんそう感じないですから」
しみじみと語る啓太と薫。だがそのBGMとして爆発や罵声はどうなんだろう。
「えーと……皆さんお知り合い、ですか?」
「まあ、知り合いといえば知り合いだな。なんだかんだでアキラを通じて知り合ったから」
「へぇ、あいつなんだかんだで友達多いのか」
「基本自分より年上ばっかりだけどな。俺が知り合ったのも高校1年のときだったから……懐かしいな」
「俺なんかあいつと会うたびに銃ぶっ放されてたんだぜ? ようこも加わって命がいくつあっても足りないって思ったな」
どかーんずどーんうぎゃー! と後ろで派手な音が繰り広げられるなか、煉や啓太たちは口々にそのころのことを思い出して語っていた。
いや、そろそろ止めましょうよ? 駅前壊滅しますよ?
「このっ! ちょこまかちょこまか!」
「大振りすぎるな綾乃。バテたか?」
「あ〜あ、そんな暴れちまって……せっかくの振袖台無しだぞ?」
「うっさい! 今度こそあんたたちに紅炎叩き込んでやるんだからぁぁ!」
どーんずかーんばごーん。
「おーい、お前らそろそろ決着つけてくれよ」
「まだ全員ではなかったのか? お前たちの従者は……」
「ああ、あいつらは薫の家でまとめて準備中だ。着いたらアキラが連絡してくれって、何故か」
「じゃあどちらにしてもあいつを止めないとどうにもならないか……」
ずぎゃーんちゅどーんぼぎゃーん。
「ぜぇっ! 何で、当たらないのよ! 和麻はともかく、昔のアキラなら1発くらいあたってもいいのに!」
「ああ、俺がサポートしてる」
「かぁずまぁぁぁぁ!!!」
「おっと。はっはっは、危ない危ない」
「大分バテてるなあ? 降参するか?」
「ぜぇっ、こ、のっ……!」
「わぁぁ! 姉様ストップストップ! それ以上やると話も進みませんし駅前壊れますからー!」
途中、煉が止めに入ってきて結局それで綾乃いぢりは終了と相成った。
「アオったら相変わらずね」
「たった1年じゃ人間そんな変わらないだろ」
「私も昔を思い出したわ……」
「歳」
「っっっ!」
鬼のような形相で綾乃は振り向き、間髪いれずに紅炎を放つ。とりあえず空間転移して上空30mまで上げてから炸裂させた。
「危ないなあ、下手したら人死ぬぞ?」
「こ、の……すまし顔で良くもまぁ……!」
「おいおい、それよりはやてに連絡入れないといけないんだろ?」
「あ、そうだったな。それじゃあこれは放っておいてっと……」
後ろでうがーっ! と暴れている生き物がいるが、無視。はやてに直通回線(音声のみ)を繋ぐ。
〈はいはーい?〉
「はやてか? 全員揃ったぞ。薫と啓太の犬神たちはまだ来てないが……」
〈ああ、それなら大丈夫や。みんな合流しとるから〉
「みんな?」
〈ほんなら、なのはちゃんの家に来てくれる? うちら集まっとるさかい〉
「…りょーかい。通信終了」
ため息をつき、同時に通信を終了する。ここからなのはの家まで結構あるぞ。
「で、主はなんて言っていた?」
「なのはの家に集合……」
なんか……散々引っ張りまわされそうな予感がする。
久しぶりに集まったことで話すことでもあるのか、周りは歩きながら会話に花を咲かせていた。今はこんなことをしているとか、前何があったとか。
「ん〜……結構大所帯だよなぁ」
「これからまだ増えるぞ。なのはたちに薫の犬神も加わって」
「…具体的に言うと何人?」
「え〜っと、薫、今お前の犬神何人いるんだ?」
「8人だね。せんだんは東家に出向しているから。ああ、あと仮契約で1人いるから、9人かな」
「…だそうだ」
「10人以上いるのかよ……」
それを想像しているのか、ユウヤの顔が少し青くなる。
「俺は慣れたけどな……散々もみくちゃされてれば」
「お前……色々あったのか」
「ああ…色々あったんだよ、色々と」
ふっと1年前のことを思い出し、遠くを見るように呟いた。ハルヒに散々連れまわされて啓太のバカ騒動に巻き込まれて和麻が余計なことに巻き込んで……あ、思い出したら涙が。
「大半は俺がトラブル呼んでいるように見えるけど、第1部だと俺がトラブルに巻き込まれているんだからな? まともにかかわったのはジュエルシード編だぞ?」
「誰に言ってるんだ、誰に」
「読者」
そうしているうちになのはの実家に到着。門の向こうにいてもきゃいきゃい騒いでいるのが聞こえる。
「おーい、来たぞー」
奇妙な不安を抱えながらも、一声掛けた。と、突然。ガララッと前触れもなく引き戸が開かれる。現れたのは意外といえば意外だが、まあ考えると当たり前な人が立っていた。
「恭也さん?」
何時だったかの任務で地球に行った時はいなかったなのはの兄、高町恭也がいた。
「うわ、久しぶりですね。この前地球に来たときは仕事でいないって聞いてたんですけど、帰ってきてたんですか?」
「………………」
「? 恭也さん? あれ? 何で小太刀抜こうとしてるんですか? ってしかも真剣ですよね!?」
「よくも妹を傷つけたなぁぁぁ!!」
「はいぃぃ!?」
なんのこっちゃと心の中で突っ込みながら、高速で振るわれた小太刀を躱す。
「ま、待ってください! 何のことですいったい!?」
「とぼけても無駄だ! 証拠はすべて揃っている!!」
何の証拠だ! と心の中で突っ込みながら躱す。躱すったら躱す。
「恭也!」
と、大声で掛けられた声に恭也さんはぴたりと動きを止めた。振り返ると、その高町家の家主。
「父さん……」
「士郎さん! よかった、とりあえず助かった」
唐突に現れた恭也さんの父、士郎さんの出現に、恭也さんは小太刀を振り下ろしかける寸前で踏みとどまる。ひとまず助かった……
なんて、思ってたら。
「父さんを加えないとはどういう了見だー!」
「そんな理由ー!?」
士郎さんも殺気全開、小太刀を抜いて襲い掛かってきた!
「くっ!」
左右から襲ってくる攻撃を跳躍して躱し、民家の屋根に着地。追撃してきたところに空間転移で回避する。達人クラス2人相手って言うのは厳しすぎる。
「だぁぁ! アンタらいったい何なんだー!」
「「なのはの兄(父)だッ!!!」」
《Excellion Buster》
直後、2人は強烈な魔力砲によって吹き飛ばされた。
「お父さんお兄ちゃん! アキラに何してるの!?」
そして門から出てきたのは振袖姿にエクシードモードという異様な格好のなのは。
ついでに言っておくと、士郎さんや恭也さん多分聞こえてないと思う。黒こげで(たぶん)瀕死の状態だし。
「まあ、何はともあれ助かった……」
「ふっふっふ、果たしてそう考えていいのか?」
「っ! 殺気!?」
不意に向けられた殺気に気づき、急ぎその場から飛び去る。直後に魔力光弾が先ほどまで居た場所を穿った。だが光弾は消滅せず、軌道を修正して再び迫る。即座にベオウルフを呼び出し、粉砕。
「スティンガースナイプ…!? クロノ、お前かッ!!」
即座に襲い掛かった魔法の名称に思い至り、ギリッと歯を噛み締めて周りを見回した。南南東にポツリと浮かぶ黒い影。
「油断したなアキラ……だがそれでも反応して迎撃する。さすがだな」
「何のつもりだ! お前も恭也さんや士郎さんと似たような理由か!?」
「解っているなら話は早い、覚悟ぉぉ!」
デュランダルを構え、突進してくるクロノ。やるしかないか…なんだかやるせない思いを抱きつつ覚悟を決め、閻魔刀を呼び出して迎撃しようとして――
《Riot Zamber Breaker》
横から飛び出した黄金の刃。そのまま刃はずんずんと伸び、真っ向から迫ったクロノを吹っ飛ばす。
「お兄ちゃん! アキラに何してるの!?」
デジャヴだろうか、これまた振袖にライオットザンバーを手にしている異色な組み合わせのフェイトが叫んでいる。多分恭也さんや士郎さんと同じで聞こえてないと思うんだが。ぼてっと落っこちてるし。
……同情はしないからな。
「まったく、新年早々なにやってるのかなみんな……」
結局その後、襲撃者3名はなのはによって拘束。チェーンバインドとフープバインド、レストリクトロックで。なのはの背後に仁王像が見えるのは気のせいじゃないな。
「次やったら頭、冷やしてもらうからね?」
「「「すいませんでした」」」
微笑を浮かべているものの目はまったく笑っていない。さらに背後に聳える仁王像のオーラに3人はおびえている。
「しばらく見ないうちになのはのやつ変わったよなぁ……」
「俺も驚いた」
戻ったらなのはの性格についてもう一度考えてしまいそうになったほどに。
「何か言いました? 和麻さんにアキラ」
「「いや、なんでも」」
口を揃えて否定する。あの和麻も異様なプレッシャーに気圧されているか。さすがなのは。
「……で、何で俺は襲われたんだ?」
「『妹(娘)が傷物にされた』って」
「俺は何もしてないぞ……」
むしろ逆に傷物になったし。
「まあ、お兄ちゃんたちも勘違いしてたってことで……」
「勘違いで殺されかけるなんて真っ平ごめんだ……」
「なーに言ってんのよ。ちょっとやそっとのダメージじゃ死なない身体してるくせに」
こつん、と誰かが頭を小突き、俺は振り返る。
「…………」
「? 何よ、そんなぽかんとしちゃって」
「あ、いや……ティアナ、だよな?」
「当たり前じゃない。まだ寝ぼけてるの?」
答える彼女、ティアナは呆れたように言い返す。
普段と違い、つい数時間ちょっと前まで左右に縛っていた髪は下ろされ、オレンジ色の振袖を着ている。
いつも見ているティアナと今のティアナが、一瞬別人のように見えた。
――見惚れてた……って絶対口が裂けても言えるかよ。
なんかそれをネタにしていじられそうだし。
「それよりも……さ、その…」
「えっ? な、なんだ」
妙に恥じらいの色を見せ、ティアナは何か言いたげにちらちら見てくる。はて……なんなんだ?
「その…ど、どう?」
「どう……って」
何が? と考えたところで……ああ、と気づく。ティアナがなんて言ってほしいのか。
「その……ああ、うん。いいんじゃないか?」
「なんか適当っぽい言い方……」
「じゃあなんて言えばいいんだよ……」
「素直に『似合ってる』って言ってほしかったのよ」
「…似合ってる」
「なんかとってつけたような言い方ね……」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
「もっと気持ちを込めて言ってほしいのよ」
そんなこと言われてもだな……
「あーっと……」
「まあ別に期待してないけどねー。アキラ気の利いた事言えないし」
そう言われるとグサッとくるなぁ……
「悪かったな……仕方がないだろ」
「なにがよ?」
「……見惚れてたんだから」
仕方ないから思ったことを話した。ただやっぱり、面と向かっていえないから目をそらしてだが。
「……………」
チラッと見ればティアナ赤面してるし。
「アーッキラーッ!!!」
元気印250%って言葉がぴったり合いそうな。だからといって振袖でダッシュしてくるのはちょっとはしたないんじゃないだろうか。
まあ、それはともかく。声に振り返れば。満面の笑みで迫る人影。そのままタックル。
「げふっ!」
「どう? どうどうどう? 似合ってる!?」
飛びついてきたスバルは目をキラキラと輝かせながら訊ねてくる。嬉しいのは解ったから、その衝動を破壊衝動に変えないでくれ。
「似合ってる……似合ってるから! ああそりゃもうよくお似合いですだから早く退いてくださいって言うか退け!!」
「ほんとに!? えへへー」
タックルしながら抱きついてきたスバルはぱっと離れ、えへへーと笑いながらくるくる回っている。よっぽど着たかったのか、振袖。
「あの子一度着てみたかったって大はしゃぎしてたからね。念願叶って嬉しいんでしょ」
「なるほどね……あ、でもどうやって着つけたんだ? お前らやり方知ってたっけ?」
「それなら、私がお教えしました。アキラ様」
凛とした丁寧なその言葉遣いに、反射的に振り返る。小柄な体躯にわずかに青味がかった銀髪のショート。いつもは白衣にカーディガンだが、今日は薄青の振袖姿。
「ごきょう…や」
「ご無沙汰しております、アキラ様。お変わりない様子で何よりです」
俺が一方的に契約を断ってしまった犬神の彼女――ごきょうやは、いつもと変わらぬ様子で恭しく一礼する。
「そう…だな」
辛うじてそれだけは言うことが出来た。ふと、隣に居たティアナがチラッと見たような気がする。
「ミッドチルダでおきた一連の事件については聞き及んでいましたが……ご無事なようで何よりです」
「ああ……みんなの、おかげで」
ごきょうやは俺が知っている彼女通りに話している。それが、逆に俺を憎んでいるのではないかという不安を抱かせた。
「その……アキラ様?」
「な、なん、だ?」
「そう緊張なさらないでください。私だって物事を弁えてはいます。今ここに存在しているアキラ様は、過去からやってきたあなたです……確かに、あの時はお恨み申しましたが……ですが、この世界をしった昔のあなたならば、この間違いを犯さない」
その言葉は確かに信頼が篭っていた。彼女はまだ、自分を主と思って、慕ってくれている……そう思うと、申し訳ない気持ちになる。
「参ったな……そう言われると絶対に間違えられないじゃないか」
「ええ、もちろんです。もう置いていかれるのはごめんですから。私はあなたの犬神です。例え地獄に行くことになっても付き従います」
「まったく、本当にお前は主人思いの従順な犬神だ」
思わず微苦笑を浮かべ、ごきょうやはくすっと微笑む。戻ったら戻ったで、やることはかなりありそうだ。
「初詣、かぁ……そう言えばずいぶん久しぶりになるなぁ」
「C.Eには初詣が無いのか」
「いや、新年を祝うってことはあるけど、そんな祝える状況じゃなかったし。戦争で」
頭を掻きながらつぶやかれた言葉に、ああ、と思い出す。忘れがちだったが、ユウヤの世界では最近まで戦争があったんだ。
「そう言えば……ユウヤの世界だと年末年始はどうやって過ごしていたの?」
「あ? あ〜……子供のころの記憶だからちょっとあいまいだな〜。比較的最近だとプラントだし、戦時中や戦後だから祝う余裕も無かったし……」
アリサの疑問に、ユウヤは顎に手を当てて思い出すように答える。
「そう考えるとやっぱりずいぶん久しぶり……って言うか、こうやってまともな正月過ごすの無かったかも」
「ずいぶん波乱万丈だったんだね……」
「ドンパチやってたからな〜。まともな年末年始過ごせるのはもうしばらく先になるかもな。多少祝えるかもしれないけど」
ま、久々の正月楽しむさ、とカラカラ笑っている。前向きなやつだ。
しかし……なんだこれは。もう一度言おう、なんだこれは。とてつもない大所帯で俺たち一行は海鳴神社を目指している。
具体的に言うと、高町家にハラオウン家、八神家にその友人たち、神凪一族(和麻含む)川平一族&その犬神使い(ごきょうやも今は薫と仮契約しているからこっち)、さらに元SOS団(俺含む)と異世界組(主にスバルたち)……およそ40人近くの大所帯。なんだこれ、なんだこれ?
「頭痛いな……これは」
「? どうかしたの?」
「いや……なんかごちゃ混ぜてんこ盛りって感じで」
「まあ、これだけの大人数だものね。っていうかよく考えるとこれってある意味すごい光景じゃないの……?」
ティアナのぼやきに確かに、と思わず思う。管理局でもトップの顔ぶれがいるハラオウン家に八神家、そして退魔一族の神凪一族のトップ3に川平家のトップ2………ついでにJS事件解決に最も貢献した新人フォワード4名+異世界でも終戦に貢献したユウヤ……んで、自分で言うのもなんだが時空剣士の俺。
「管理局でもトップの人たちに加えて、地球でも最強レベルの人たちでしょ? 下手したらこのメンバーで管理局相手に渡り合えるじゃない」
「そう…だな。指揮を啓太に任せたらそれこそ勝てるかもしれない」
何せ指揮能力を見れば管理局にもいない人材だろうし。
「そんな中だとやっぱ私浮いてるわ……」
「ティア?」
「こんななかでやっぱ私って特徴無いし……」
「バーカ。そんな自分卑下することも無いだろ。安心しろ、お前は間違いなく凡人じゃないから。それを言ったらお前より下のやつら全員平凡以下だ」
また自分を過小評価し始めたな…テイアナのやつ。
「もしまだ自分が劣ってるって思ってるんだったら、だったらまだまだ自分の術を磨けばいい。無茶しない範囲でだな。簡単だろ?」
「なんか似合わないわね…あんたがそう言うのってやっぱり」
「悪かったな。自分でもそう思ってるんだよ」
「アハハ〜。でも、私たち3人ならほとんどの事どうにかできると思うよ。アキラが守ってくれるし」
「って俺が突っ込むのかよ?」
「違うの?」
意外そうに言うな……まったく。
「……否定はしないけどな」
「ほらやっぱり〜♪」
「う、うっさい! ティ、ティアナも笑うな!!」
「ふふっ、だって素直じゃないって思ったから――」
「悪かったな! どーせ俺は捻くれてるよ!」
「でもそのくせ意地っ張りなんだよねー」
「ス〜バ〜ル〜〜〜〜!」
一言多いスバルにヘッドロックを掛けて締め上げる。
まったく、どうにもこいつといると調子が狂う。この底抜けのお花畑頭は……!
……まあ、嫌いじゃないけどな。
「お前は、本当に! いつも! 余計な! 一言が! 多いんだよっ!!」
「うわあぁ〜ん! ギブギブーー!」
「…………」
「あれ? ごきょうやちゃんなんだか嬉しそうですね」
「え? そ、そうか?」
「……口元、綻んでた」
「アキラ様見ていて嬉しそうでしたよ〜」
隣を歩いていた、いつもと変わらぬ巫女服のフラノが気付き、止めにてんそうが小さく指摘すると、ごきょうやの頬がわずかに赤くなる。
「明るくなられた……と思ってな」
「アキラ様がですか〜? まぁ、確かに1年前に比べたらずいぶん変わりましたけど」
「…感じ、変わった」
するとてんそうはスケッチブックとペンを取り、サササッとアキラを描き上げる。片腕を腰に手を当て、髪をたなびかせて小さく、だが確かに笑っている。
「こんなかんじ?」
「うわ〜、さっすがてんそうちゃんですね〜」
描き上げた絵をフラノやごきょうやに見せると、フラノはひゅぅっと口笛を吹き、ごきょうやは一瞬魅入る。確かに今なら、こんな風に笑うかもしれない。ごきょうやはそう思った。
「きっかけを作ってくれたのは……多分」
周りにいるティアナやスバル、エリオにキャロ――そして、一番大きく影響を与えたのは、ユウヤかもしれない。対極にいる2人だが、実際は似たもの同士。だから影響を受けて彼は変わることが出来たのかもしれない。
残り少ない時間を使ってでも、この1年で得たものは大きいのかもしれない……ごきょうやはそう思えた。
そして、なんやかんやで色々ありながらも、とりあえず海鳴神社に到着。
「懐かしいな……」
「そうだね……」
石段を登った先を見上げ、感慨深げにつぶやく。なのはも同じことを思ったのか、同じように会談の先を見上げた。
「? 2人ともここで何かあったんですか?」
「ああ、えっと……」
「俺がなのはをフルボッコしたところだ」
なのはが手を加える前に、すっぱりと話す。恨めしそうに見られるが、気にしない。
「……は?」
それに唖然とするティアナ。聞き違いかと思ったのか。
「文字通りの意味だ。ここの先……境内で俺となのはは戦ったんだよ。結果は俺の圧勝。なのはは手も足も出ずに敗北」
「そ、そんなことないよ! そんなこと無いからね!?」
あわてて否定するなのはだが、もう遅い。
「な〜に嘘つこうとしてるんだよ? 思いっきり事実だろ」
「う、うぅぅ……教官としてのたちばがぁ〜〜」
うにゃぁ〜〜と奇妙な声を上げてへたりこむなのは。そりゃあ過去の話とはいえ、今は部下の俺に一方的にやられたっていう話は恥ずかしい過去だろう。
「えっと……それ、ほんとの話?」
「ティア…私もそう聞いたんだけど、本当の話だったんだよ……」
スバルが聞こえないようにそっと耳打ちしている。その間に俺はぺらぺらと1年前(10年前)のことを喋った。
「俺となのは、確か2度目に会った場所か。最初は夜道で俺が代行者と戦って逃げ回っていたところに、なのはがジュエルシードの思念体から逃げ回っていたところと鉢合わせして。まあ、その思念体ってやつは軽くぶった切ってやったけどな。
で、次はこの境内で。ジュエルシード奪い合いだった。結果は俺の圧勝、なのはの惨敗。あの場で件を止めなかったら生きてなかったなーなのは。うん、なんて寛大なんだ俺は」
「うにゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」
「にわかに信じがたい話ね……」
「私もそう思ったんだけど、ほんとなんだよ……仮にフェイトさんとなのはさんがタッグを組んで挑んでも、アキラまず負けないって」
「私もアキラと初めて会ったときにこてんぱんに叩きのめされたからね……フェイント掛けられてそのまま至近距離から闇の吹雪最大出力叩き込まれて……ふふ、ふふふふふ」
「歴史を疑うわ……今を生きている私たちからしたら信じられない話よ」
「まともに負けたことは無かったな……一応カウントするんだったら、フェイトは一勝しているといえばしているけど」
「え、うそ!?」
「不意打ちだけどな、しかもフェイト自身じゃなくてプレシアがやって」
「あう……で、でもあれは私も気付かなかったんだよ?」
「そのあとフランヴェルジュとヴォーパルソードを持ち去ったのはどこのフェイトさんでしたっけねー?」
「うあうう……」
フェイトもたじたじにしてやった。話を聞いていたエリオやキャロ、ティアナにスバルたちは唖然としている。
「結局のところ、こいつらが正攻法で勝ったことなんか1度も無いな。せいぜい協力者からの不意打ちでようやく勝った程度だ」
「う、うぅぅぅ」
「アキラ…いじわる」
涙目になって訴える二人に、俺はフフンと鼻で笑ってやった。
「さすが……時空剣士、って言えばいいの? 規格外よ」
「時空剣士だからな。その気になれば単体で戦略兵器にもなるし、歴史を根底から覆せる。時空剣士のとっては『常識』というものは当てはまらないも同じさ」
「改めて痛感したわ。あんたに常識は通用しないって。っていうかこの世界って下手したらオーバーSランクの宝庫よね!?」
んんー……確かに。ミッドから比べたらこの世界自体が規格外になるな。
「ま、そんな話はおいておいて、早く上ろうぜ? なんか出店も開いてるみたいだし」
「そうだな。2人をいじるのももういいだろ」
「うぅ、やっぱりアキラって意地悪だ……」
「今も昔も絶対にこれは変わらないんだよなのは……」
のの字を描いて蹲りぼそぼそと言っている2人に苦笑する。
「今のお前たちだったら互角だろ?」
「でもアキラはたった1年しか成長していない」
「それで勝っても…実際、あんまり嬉しくないよね」
「わかったわかった、俺が戻って年月経って六課結成したら、ちゃんと本気で相手してやるから。それでいいだろ?」
「ほんとう?」
「全力全開で戦ってくれる?」
「ああ。だからそうひがむな。な?」
「なーなーそこの3人さんー。君たちが全力全開で戦ったら六課の敷地壊滅しそうやから別のところで戦ってなー。なー聞ーとる?」
遠慮がちにはやてが突っ込み、それで昔話は終わりになった。
「ま、もういいか。早くお参りでもして――」
――そのとき、
キィィィン
馴染みのある、だが久しく聞いていなかった耳鳴りが聞こえた。
「…………」
その瞬間、俺はさっと周囲に気配を配る。
「アキラ? どうした?」
俺の様子にいち早く気付いたユウヤが、どこか警戒した様子でたずねた。
「いや……」
あの耳鳴り……気のせいだろうか。
キィィィン
……違う。気のせいじゃなかった。
「新年早々……よくもまぁ」
「? なにがだよ?」
「用事が出来た。悪いけど先に上がっていてくれ」
それだけ言い、集団から抜け出す。後ろから驚き、声をかけてくる皆の声を振り切って。
「誰だか知らないけどな……あいつらに手を出すやつは誰だろうと許さない――!」
人の気配が少なくなったところで、海岸に飛び降りる。キィィンという低い耳鳴りはますます強くなる。
「――アイスウォール」
小さくつぶやき、目の前に大きな氷の壁が作り出される。鏡のように磨き上げられた大きな氷壁。もう1つの世界を映し出す鏡であり、行くための鍵。
久しく使っていなかった、懐のポケットに収められていたカードデッキを抜き、鏡にかざす。
鏡の向こうにいる自分の腰に、取り付くようにベルトが装着され、それは減じる世界にいる俺にも装着される。
「――変身」
かざしたデッキを装着されたベルト――Vバックルの中心、黒く窪んだ場所に差し込む。刹那、鏡に映った自分を覆うようにして甲冑のようなものとスーツが被せられ、同時に現実にいる自身にも同じものが装着された。
仮面ライダーナイト――なるたびに思うが、俺は騎士(ナイト)の名は似合わないと思うんだが――の姿となり、躊躇う事無く「氷」の中に入り込んだ。
建物も、太陽も、影も、すべてが逆。それはこのミラーワールドでは珍しいことではない。鏡に映るもう1つの世界だから当たり前のことだ。
相変わらずこの世界にはなじめない……そう思いながら、感覚の導くままに走り続ける。そして、その背後から迫る黒い影。
「ダークウイング、先行しろ」
頭上を飛んでいた巨大な漆黒の蝙蝠……ダークウイングに短く命じ、ダークウイングは翼を羽ばたかせて先を往く。機動力のあるダークウイングで先行してもらい、自分はそれを追いかけるということだ。
程なく、耳鳴りの源を見つけ出す。装甲に身を包み、二足歩行するようになったサイ……メタルゲラスと、同じように鋭利な爪を両腕に装着したトラ……デストワイルダー、さらにレイヨウのオメガゼールだ。
3体……しかもそこそこ手ごわそうだ。だが――負けるわけにはいかない!
『ランサーベント』
デッキからカードを抜き、左手に持っていた翼招剣……ダークバイザーにベントイン。空から身の丈ほどもある鋭利な突撃槍、ウイングランサーが落ち、ダークバイザーの二刀流で突っ込む。
「オォォオオオッ!!」
気合とともにダークバイザーでオメガゼールに一閃。メタルゲラスにはウイングバイザーで斬りつける。
「お前たちを空気の読めない奴……そう言うんじゃないのか?」
ウイングランサーを構え、静かにつぶやく。たった一撃で倒せるほどこのミラーワールドに存在するモンスターはやわじゃない。
メタルゲラスが、デストワイルダーが同時に襲い掛かる。パワーに優れるこの2体を接近戦で相手にするのは不利だ。しかも防御も硬い。
だがナイトだって接近戦。巧みに掻い潜り、逆にカウンターの一撃を叩き込む。
メタルゲラスの突進を捌き、デストワイルダーには攻撃が届く前にウイングランサーを突き出して牽制。再び向かってきたメタルゲラ巣を捌き、同時に脚払いを掛けて転倒。同時に間抜けなケツを蹴り飛ばす。再び向かってきたデストワイルダーも攻撃を受け止め、腹に蹴りを食らわせた。
『ソードベント』
そしてすばやくウイングランサーを放り投げカードを引いてベントイン。落下してくるウイングランサーと同時に、ソードベントによって現れた大剣――アラストルを左手で受け止める。
「ハッ!」
体勢を立て直したメタルゲラスを再び蹴り飛ばす。右手には突撃槍、左手には雷を滾らせる大剣とある種異質な光景に、モンスターは僅かに怯んでいる。
「さぁ、イカれたパーティーの始まりだ!」
響く靴音が、パーティーの始まりを宣言した。
雷光の剣閃が煌き、メタルゲラスを斬りつける。爪を突き出してきたデストワイルダーはステップを刻んで避け、ウイングランサーで薙ぎ払う。
「? あと1体は……」
ふと、オメガゼールの姿が無いことに気付く。周囲の気配を探るが、見当たらない。逃げた? いや……そんなはずは無い。
離れて隙を伺っている……それが妥当か。
「いい気に――」
メタルゲラスとデストワイルダーの一撃を受け止める。
「なるなッ!!!」
気合とともに拮抗していたモンスターを吹き飛ばした。そのままアラストルを逆手に持ち替え、力を注ぎ込む。
「ハァァァァァ……」
大剣に帯びた雷が力を注ぎ込まれ、いっそう激しく迸る。
「ライトニング……!」
稲妻が青白く輝き脈打つ。
「ドライブッ!!」
剣を振り上げ、雷を帯びた衝撃波を放つ。稲妻が焼き、刻み、打ちのめす。
「オーバーッ!!」
さらに連続で衝撃波を放ち、大きなダメージを叩き込む。
「――インパクトッ!!!!」
アラストルを天に掲げ、極限にまで力を注ぎ込むと、そのまま一気に振り下ろし、今までよりもはるかに巨大な衝撃波を解き放った。地面が砕け、モンスターに飛礫が打ちかかる。
デストワイルダーは3連続のダメージでほとんど体力を失ったのか、その場に蹲っている。だが防御の硬いメタルゲラスはまだ立ち上がれる体力があったのか、不利と見て逃げ出そうとする。
「逃がすか!」
だがそう簡単に見逃すほど俺は甘くは無い。アラストルを地面に突き立て、ウイングランサーを逆手に構える。ウイングランサーを包むように、風が巻き起こる。
「――貫け!!」
そのまま投げ槍のように助走をつけ、一気にウイングランサーを投げ放った。ウイングランサーにまとっていた風が竜巻となり、そのままメタルゲラスを飲み込み、封じ込める。その仲を放たれたウイングランサーは突っ切り、メタルゲラスを文字通り貫いた。メタルゲラスが貯めていたエネルギーが爆発し、竜巻が消し飛ぶ。
背後では逃げ出せる程度に回復したのか、デストワイルダーが退散しようとしていた。
『アクセルベント』
新たなカードをベントイン。その瞬間、俺は全ての動作が短時間だけ高速化される。
「これで――」
呟き、アラストルを肩に担ぐ。まさに一瞬のうちにデストワイルダーの前へ回り込んだ。
「断ち切れ!!」
一閃! 全霊を載せた刃がデストワイルダーを袈裟懸けに両断。爆発する。
「――ラスト」
オメガゼールを捜し求め、あたりを見渡す。だが不意に殺気を纏った何かが迫り、反射的にその場から飛びのいた。
「くっ!?」
危ういところだった。アクセルベントの効果が続いていなかったら直撃していたかもしれない。
だがそれは狼煙でしかなかった。20体以上のモンスターがわらわらと現れ、周りを取り囲む。
「メガゼール、ギガゼール、ネガゼール、マガゼール……レイヨウモンスターのオンパレードか」
周りをぐるりと見渡し、レイヨウ型モンスターの中でも特に大きいゼールを見つける。最初に見つけたオメガゼールだ。
「数に任せて俺をやるって寸法か? 姑息な手を使うじゃないか」
軽く肩を竦め、挑発するように呟く。さて……どうしたものか。この数相手は負けないという保証は無いが、勝てるという保証は無い。何せ連戦だ。1体ずつ相手にしていても時間が足りない
「手っ取り早く終わらせる……」
あのカードを、使うしかない。
ベルトのデッキから、カードを抜く。そして周囲に疾風が吹き荒んだ。手にしたカードが、それほどまでの力を引き起こしている。そして、ダークバイザーにも変化があった。ひび割れると同時に砕け、中から盾の形をした鮮やかな青のバイザーが出現する。
手にしたカードは荒ぶる『疾風』を受ける、片翼の絵。それを、新たなバイザーの盾部分にベントイン。
『サバイブ』
その瞬間、全身が疾風に包み込まれた。だが次の瞬間には風は吹き飛び、サバイブ『疾風』によって強化されたナイトサバイブとなって現れる。
強烈な風に煽られ、ゼールたちは怯んだ。その隙に再びカードを抜き、ダークバイザーツバイのダークブレード部分にある鍔のカバーを開き、カードをベントインする。
『ブラストベント』
その名が響いた瞬間、上空にダークウイングが姿を現した。だが次の瞬間、ダークウイングは脱皮するようにひび割れると同時に砕け、ダークレイダーとして生まれ変わる。
そして、両翼から車輪を出し、回転。巨大な2つの竜巻が発生し、ゼールを飲み込む。今ので10体は稼げたか。
ダークバイザーツバイに収められていたダークブレードを引き抜く。そのままマガゼールに迫り、素早く4連撃を叩き込んだ。切り払ったと同時にカードを抜き、ダークブレードにベントイン。
『トリックベント』
ベントインしたカードの効果が発動される。シャドーイリュージョンが発動され、いくつものナイトサバイブの分身が生み出た。その数5。
「ハッ!」
いっせいに散開し、ゼールたちに斬りかかる。本体の俺は、オメガゼールに狙いを定め襲い掛かった。
オメガゼールはその巨体には似合わない俊敏性で鋏状の刃がついた杖で攻撃してくるが、俺もダークバイザーツバイのシールドで、ダークブレードで受け止めながらカウンターを叩き込む。
するとオメガゼールは距離を開け、杖というリーチを生かして間合いの外から攻撃してくるようになった。だがそう簡単に距離を開けるほど俺もバカじゃない。オメガゼールが杖を突き出したと同時に流れるように回転して受け流し、そのまま勢いを乗せた蹴りを叩き込む!
「ショウダウンだ。心の準備は良いか?」
剣の切っ先を突きつけてわずかに揺らしながら言い、同時にカードを引き抜く。図柄は水晶のような輝きを放つ剣。
『エターナルベント』
カードが発動した瞬間、ダークブレードをダークバイザーツバイに収め、右手を掲げた。直後、エターナルソードが舞い降りる。
「時の流れを垣間見ろ……」
呟き、カードを抜きダークブレードにベントイン。
『ヴァニッシュベント』
その瞬間、オメガゼールの周囲を囲むようにして10個の球体が浮かび上がった。そのまま球体――小型中性子星――は高速でオメガゼールの周囲を飛びまわり、空間がゆがむ。
「文字通り消えろ。アイン・ソフ・オウル!!」
その名を叫んだと同時、オメガゼールの時空連続体が徐々に破壊され、完全に破壊されると同時に消滅した。
エターナルソードの秘奥義、アイン・ソフ・オウル……ヘブライ語で『無限光』の名を意味するこの技は、相手を歴史上から抹消する。つまり、無かったことにしてしまう。
オメガゼールが消滅したことを機に、ゼールの統率が乱れた。それをトリックベントで生み出された分身が一箇所に追い散らす。
さぁ、フィナーレだ。
『ファイナルベント』
ファイナルベントをベントインした瞬間、ダークレイダーが上空に現れ、俺はその上に飛び乗ると、ダークレイダーの背後に突き出た2つのバーを掴んだ。それと同時にダークレイダーも変形。バイクモードとなると、掴んでいたバーのアクセルを限界まで回す。
背中のマントが広がり、同時にダークレイダーごと全体を包み込んだ。そのままジェットを噴射して加速し、ゼールの群れに突っ込む!
巨大な弾丸と化したダークレイダーが駆け抜けた直後、ゼールが次々と爆発し、今度こそモンスターを殲滅した。
ミラーワールドから帰還し、急いで神社に向かってみる。案外人が多く、魔力捜査してようやく1人見つけた。
「なのは」
「あ、アキラ!? 急に飛び出してどうしたの? 皆心配してたんだよ?」
「ちょっと…な。ミラーワールド関連で」
いなくなったことに関連する単語を1つだけ出すと、なのはも納得したような顔になる。
「モンスター出てたの?」
「ああ。ちょっと数が多くててこずったけどな」
特に最後のレイヨウ軍団が。
「そうだったんだ……大丈夫だった?」
「俺を誰だと思ってるんだ? モンスター程度にやられる俺じゃない」
数の暴力に押されたけど。
「そっか……あ、もう皆お参り終わって自由行動取ってるよ。スバルとティアナは下に下りていったけど……見かけなかった?」
「あ〜……もしかしたらそれっぽい人間見掛けた、かも」
たぶんスバルは出店全制覇を目論んで、ティアナはそれにいやいや付き合って…って言う構図がすぐに思い浮かんだ。
「それで、アキラはお参りする?」
「しない」
きっぱりと言い切った。俺の返答になのははステーンとこける。
「え、え、え? な、なんで?」
「お前だって知ってるだろ? 俺がカミサマがダイッキライってこと」
「あ、そ、そうだった……」
お参り→神様にお願いする→殺してやりたいほど嫌い→誰がテメーに頭下げるかバーロー。簡単に言うとこんな感じだ。
「だからしない。お前らが頼んだってな」
「もう……でも、そう言うのバチあたりって言うんじゃないの?」
「バチあたり結構。それで本当に罰を与えるために降りてきたなら、そのクソッタレな顔面を右腕でぶっ潰す」
右手が白くなるほどに握り締め、俺は呟いた。
それを、どこか悲しそうな目で見つめるなのはに気付き、ぱっと手を開く。
「ま、そういうことで頼まないさ。ついでに金も勿体無い」
今のことが無かったように振る舞い、俺は腕を下ろした。
「だからそんな顔するな。っていうか今のは無かったことにしろ」
「う、うん……」
うなずくなのはだが、その表情は晴れない。微妙に気まずくなってきた……。
「じゃ、じゃあ俺、皆探してくる。それじゃ」
「あ、アキラ!」
そう言うとそそくさと逃げるようにその場を離れる。これ以上いると気まずくなりそうだった。
「だめだなぁ、俺……」
いくら気まずいからといって、あそこで逃げるのはだめだっただろう。はあ、とため息が漏れる。
「あ、アキラや」
「っ!」
不意に声をかけられ、反射的に振り返ると同時に身構える。ここ最近のトラブルの発祥たる人物が目の前にいた。
「なんだはやて。またよからぬことを企てているのか?」
「…そんなあからさまに警戒されるのは傷つくなぁ」
「今までお前がやらかしてきたことを胸に手を当て考えろ」
ちなみに現在進行形で好感度は右肩下がりの真っ最中だ。
「まあまあ、そんな警戒しないでええやん。別に何もする気はないんやし」
「(信用できるかっ!)」
胸中で吐き捨てるように突っ込んだ。
「で、こんな林の奥に来てどないしたんや?」
「お前には関係ないだろ」
「そういうわけにもいかん。アキラはうちの大事な人やからな」
「……だからって言う気はない」
「相変わらず頑固やなぁ。ま、そんなアキラがうちは好きなんやけど」
「ほめたって言わないぞ」
「ならええよ、言わなくても。そもそもアキラの黙り込み癖は今に始まったことやないからな」
そのまま場は沈黙が訪れ、俺は構えを解いて背を向けた。
「ま、本音はちょっとでも話してほしいけどな」
「どっちだよ…」
くっと思わず苦笑がもれた。
「だって誰かにちょっとでも相談すれば、解決は出来なくても手がかりは得られるはずやし」
「……じゃあ聞くけど、カミサマブチノメスにはどうすればいい?」
「はっ?」
「だから、カミサマを叩きのめすにはどうすればいいって聞いてるんだ」
「あ、え? え?」
ならばと思い打ち明けてみると、予想通りに言葉に詰まって困惑。機体もしていなかったし予想通りだったから特に何も思わなかったが。
「知ってるだろ? 俺がカミサマを叩きのめしたいって」
「そ、そうやけど……」
「で、初詣に来てふと思ったわけだ。『どうやったらカミサマを叩き潰せるのか』ってな」
「……それが、悩みなんか?」
「そうだな。だが悩みってほどじゃないか。単なる疑問、それだけだ」
「それはまた…難解な疑問や。普通やったら『会いに行ってぶっ潰せ』が良いと思うんやけど」
「簡単に殴れる相手じゃないからな。しかも道のりは長く険しい」
確かに、道はある。だがそれは果てしなく長く、険しい道のりだ。そして生きて帰ってくるという保証もない。
「……悪い、忘れてくれ。そう簡単に答えが出る疑問じゃなかった」
顔だけ向け、ごまかすように笑みを浮かべた。
「…まあ、アキラがそう言うんやったらこの話はおしまいにするけど」
「……助かる」
「――なあ、ちょっとした雑学聞いてみぃへん?」
「雑学?」
「そや、お正月にちなんだ雑学」
にっこりと笑いながら答えるはやて。まあ、別に聞かないって理由もないし、聞くだけ聞いてみるか。
「へえ、どんな話だ?」
尋ねながら近くの木に寄りかかる」それでは、とはやては言葉を切り、こほんと咳払いをした。
「アキラ、今日が何の日化知っとる?」
「1月2日だろ? それが何だ?」
「ん〜……まあ、なんや。日本ならではの行事…ってやつやな」
日本ならではの行事? そう聞いて、俺は首をかしげる。何かやったっけ?
「まあ、アキラはどっちかというと外国で過ごしていたほうが長いからなぁ。案外わかっとらんと思うよ」
「2日にある行事……だめだ、さっぱり」
結局思い当たるものがなく、手を上げて素直に降参の意を示した。くすっとはやては小さく笑むと、うっすらと青みがかった振袖の裾を揺らしながら近づいてくる。
「そうやね……この行事はいろいろと説があるんやけど、もっとも有力な説は正月の初めに強飯(こわいい)……つまりはおこわを食べる習慣から、それ以降に普通のご飯を食べることに由来した、って説が有力や」
「へえ…?」
それはまた知らなかった。一応母さんは純和風の家系だけど、外国に行ってからは父さんとの2人暮らしだったし。
「ほかにも乗馬初めに火や水を使う日だとか……まあ、いろいろ諸説はあるんよ」
「それで?」
「炊いたご飯は姫飯(ひめいい)、乗馬は飛馬(ひめ)、火と水はそのままに火水(ひめ)と呼ばれるんや」
ひめ……姫? なんだろう……何か、かすかに引っかかる。同音異義語で意味もそれぞれ違う、だけど共通して初めて……ひめ………はじめて?
「ん〜、その様子だとあとちょっとのところまで来てるみたいやな」
いつの間にか、はやては息がかかりそうなほどまでに近づいていた。
何か、起きる。わからない何かが起きると六感が訴える。
「はやて……お前、」
「ふふ……ちなみに、夫婦の交わり事は秘め事って呼んで、それが転じて……」
僅かな恥ずかしさを含んだ紅潮した頬、上目遣いの碧の瞳に吸い込まれそうになる。その瞬間、思考がスパークして答えを導き出した。
「姫始め……そう言うんよ」
妖しくも美しい笑みを浮かべ、はやてはそのままキスをしてきた。
「ん、ぅ――ま、まてっ! こんなところで…!」
「ここやからええんやんか」
あわてて顔を上げ、引き剥がそうとする。だが顔を上げたとたん、空が僅かに赤くなっていることに気付いた。
「結界……いつのまに!? そんな予兆はなかったのに」
「遅延呪文と封鎖結界を組み合わせて……これで、誰にも邪魔されんから」
「や、やめろって! なんでこんな……」
「うちやってアキラのことが大好きや。だからフェイトちゃんにもなのはちゃんにも……誰にも、負けられへん。負けたくないんや」
「け、けど俺は一緒にいられない……お前だってわかってるだろう!?」
「そやな……どんなに止めても、きっとアキラは戻ってしまう……なら、絶対に帰れないようにするだけや」
「絶対に…帰れない?」
わからない…はやてが何を言いたいのか…………俺をどうしたいのか……。
そのままゆっくりと押し倒され、はやては上に跨ってくる。
「せやから……一緒に楽しもう?」
「ちょ、ま――」
そのままはやてはゆっくりと顔を近づけて――――――――
「むふ、ぐふふふふ。『青山アキラ強奪占領計画』……なんやかんやと色々あったけど、勝利の女神はうちに微笑んでくれよおったわ……にしてもいくら行かせないためとはいえ、6回以上はさすがにキツかったなぁ……あたたたた…ちょっと腰が」
「…………………」(魂抜け出ている
今度こそ終われ